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#42.生地屋の話

Posted by KINN Tailor on 12.2011 生地の話   0 comments   0 trackback
 戦前の話になりますが、私共の店では舶来の生地の場合は、英国ジョン・
クーパー(John Cooper)社
の製品を主に扱っている時期がありました。
 当時ジョン・クーパーの製品は、世界でも5本の指に入ると云われていま
したが、直接輸入することはできなかったので、銀座にあるS社を通じて仕
入れていました。
 そのジョン・クーパー社との素敵な思い出話をしたいと思います。

 ある時、ご来店になったお客様が、店にあった他のお客様の仮縫いの服を
ご覧になって「私もこの生地が気に入ったので、仕入れて下さいませんか」
と、おっしゃいました。
 それはジョン・クーパーの生地だったのですが、残念なことに…仕入れた
生地が全部売れてしまった後でした。
 そこで早速本国に注文してもらったのですが、英国でも完売してしまった
…との回答でした。その旨をお客様に説明したのですが、とても残念がられ
て、どうにか探して欲しい…とおっしゃるのです。
 そのことをジョン・クーパーに説明すると「そんなに欲しいとおっしゃる
のなら、一着分織りましょう」
と言ってくれたのです。

 暫くして生地が届いたのですが、本当に一着分だけ織ってくれたらしく、
生地の前後に織り出しのための布と織上がりのための布が付いていました。
お客様はそれこそ大喜びして下さいましたが、お客様を大切にする英国メー
カーにしても、かなり珍しいことだったようです。

 また終戦後には、あるお客様が英国に行かれることになり、ついでに直接
生地を買って来たい…とのことで、どの生地屋が良いか相談を受けました。
 父はジョン・クーパーを紹介したのですが、実際に現地に行くと、洋服屋
以外には生地は売らないと断られてしまったそうです。
 そこでお客様が私共の店の名を出したところ、「KINNはオールドフレンド
だから売りましょう
」と言って、気持ちよく何着分かの生地を売ってくれた
そうです。
 ジョン・クーパー製品は私共の店の主力…と言っても、大手の会社と違い
そんなに大量にオーダーしていた訳ではなかった筈です。
 それでも昔は、一つ一つの顧客を大切にした…と言うか、顧客の要望に合
わせて細かい対応をしてくれました。
 最近は何事も、色々と決まり事が多くて「融通が利かないなぁ」と思う事
もしばしばですが、ビジネスライクとは、こういうことなのでしょうか?
 私共のような小さな商売では、小回りが利きますから、かつてのジョン・
クーパーのように、個々のご要望に合わせた対応を続けていきたいと思って
います。
 ジョン・クーパーは、残念なことに色々な事情から他の何社かと合併して
しまい、以前のような取引はできなくなってしまいましたが、そのブランド
は今でも残っています。


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プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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