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#32.私の修業時代:その弐

Posted by KINN Tailor on 04.2011 修業時代の話   0 comments   0 trackback
 私が修業していた時、何かにつけて教えてくれた職人さんが居ました。
「Hさん」といって、もともと軍服を作っていたのですが、縁があって父の
店の職人になりました。
 軍服を作る人は、大抵の場合仕事が早いのですが、この人も大変に早く、
更に呑み込みも良く、上手く組み立ててくれるので、急ぎの仕事など大変助
かりました。

 この職人さんの「技?」で、今でも忘れられないのが、「まつり」の速さ
です。
「まつり縫い」は袖裏、袖口、裾などの始末をする時に用いる技法ですが、
とにかく"まつり"が物凄く速いのです。
 まつりをやっているところを見ていると、いくら目を凝らして見ていても
糸を引っ張る動作しか判らないのです。まつりというのは、針を布に刺して
適当な間隔で次のところへ刺して、針を引っ張って糸を締める
訳なのですが、
この人の仕事は、速すぎる?ためか、針を刺す動作がちっとも見えず、糸を
引くところだけが見えるのです。
 そしてとても面白いことは、"急ぎ"の物ほど縫い目が細かいのです。・・・
何だかアベコベのような気がしませんか?
 とても不思議だったので質問してみたら…「荒く縫うには目を揃えなけれ
ばならないのですよ。細かく縫えば多少目が揃っていなくても判りませんが、
荒くて目が揃っていないと見た目が悪いでしょう」と教えてくれました。
 ナルホド!と思いましたけれど、私がやると、やはり目の細かい方が時間
がかかってしまうんです。
 ですから「目が細かい方が速い」というのは、Hさんの特技だったのだな
・・・とつくづく思いました。

 もう一つ素晴らしい!と思ったのは、Hさんは「自分の仕事のやり方」を
自由に変えることができる…つまり、違うやり方が抵抗なく受け入れられる
のです。
 私は少々へそ曲がりですから、常に何か新しい方法はないかな、と探して
思いついたことをやってみるのですが、難しい仕事で一寸自信のない時など
Hさんに頼んで試作してもらったことがよくありました。
 これは実に大したことだと思います。考え方が自由なのですね。Hさんは
よく「やらなきゃ何も出来ませんよ」とか「やらせれば、出来るようになり
ますよ」
と言っていました。
 職人さんの中には、自分のやり方は絶対に変えない人がいまして、それは
それで立派なことだと思いますが、私はこのHさんのような人にめぐり会え
たことが実に幸せだったと思っています。
 私は今まで自由な発想で、色々新しいことを試してみたり、人がやらない
ようなことを敢えてやってみたりして来ましたが、今思い返すと、Hさんの
影響が大きかったのだな…と思います。


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プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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