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#273.金洋服店とモーニング その七

Posted by KINN Tailor on 28.2016 礼服の話   0 comments   0 trackback
 私の父は普通の洋服店店主=所謂「ビスポークテーラー」で、特に礼服を
得意としていた訳ではないのですが、お客様に恵まれ一般の同業他店よりも
礼服を作る機会がずっと多かったため、"礼服が得意な店"と言われるように
なりました。

 礼服の中で、ご注文を頂いた数ではモーニングが一番多かったのですが、
父自身もモーニングが特に好きだったようで、色々と工夫をしていました。
 父は日本人の体形について「別に形が悪い訳ではないけれど、やはり外国
人に比べて背丈やボリュームが足りないから、バランスを良くしないといけ
ない
」と言っていました。つまり日本人がモーニングを着ると、どうしても
四角く、着物のような感じに"こじんまり"見えてしまう…という事でした。
 着物に比べて洋服は立体的で全体的に緩やかなラインがあるので、それを
表現したかったようです。
 父が特に大切にしていたのが後姿でした。「後姿がすんなりしているモー
ニングは全体の姿が美しく見える」…という事で、タンザクの幅を一般に作
られている物よりも狭くしました。そしてダルマ形のカーブにも気を使って
いました。
 私は最初の頃、外国の製図本を参考にしていましたので、このダルマ形の
カーブをコンパスを使って描いていましたが、父にカーブを描き直すように
アドバイスされました。父はサイバラの上の方に膨らみをもって行くカーブ
…つまりコンパスで描かれるラインではなく、放物線のようなカーブを好ん
でいました。
モーニング後**
 更に父は、「形が美しくなるのなら、縫い方は変えて良い」という考え方
でしたので、従来のやり方を変える事にあまり躊躇しませんでした。
 例えばモーニングのジャケットの脇を絞った形にしたい場合、一般的には
前身にダーツを取りますが、父はこのダーツをアームホールまで抜いてしま
い、サイバラを2枚にする
方法を取っていました。この方がラインがスッキリ
するからです。
 また見返しは、普通スカートの縫目まで付けて、スカートの部分には付け
ませんが、父はスカートまで長く延ばして付けました。手間は掛かりますが、
身頃とスカートに段差が出ませんし、スカートの流れや動きがとても綺麗に
なるというのが理由です。
 他にもサイバラの裏地を変えてみたり…と、色々と細かい所まで工夫して
いました。

 父らしさが出ている所としては、仮縫いの時のタンザクの部分です。普通
は(図のように)背中心の縫い目で折って止めておきます。父は背縫い目を
途中から少しねじって実際の仕上がりの位置まで持って行き
、止めます。
 仕上がりには全く関係ない事ですし、生地をねじるためにアイロンワーク
をしなければなりません。そして仮縫いが終わった後にはまた生地を戻す…
という手間が掛かるのですが、父は仕上がりの形をお客様に見て頂きたくて
このようにしたのだと思いますし、私もこのやり方を引き継いでいます。
 なぜなら、仮縫いの時に仕上がった状態に近い形にするのは、お客様だけ
でなく作る側の私たちとしても安心する事なのです。
タンザク仮縫い**
モーニング1**
写真:私共のモーニング 背の仮縫い

〈つづく〉


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プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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