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#271.金洋服店とモーニング その五

Posted by KINN Tailor on 14.2016 礼服の話   0 comments   0 trackback
 昭和27年11月に立太子礼が終わり、ホッとしていた頃、次に頂いた大きな
仕事・・・それは翌年(昭和28年)のエリザベス女王の戴冠式に天皇陛下の
御名代として参列される皇太子殿下が、訪英を機会に各国(ヨーロッパ諸国、
アメリカ、カナダ)を半年かけて船で外遊される事になり、その際に必要な
洋服
の御注文でした。
 御注文の内容は全部で10着。記憶では背広5、替え上着3、オーバーコート
2 だったと思います。御注文を頂いたのが11月末で御出発が3月でしたから、
約3カ月という短い期間でお仕立てする事になったのです。
 父は「皇太子殿下の初めての大きなご旅行なのだから、金洋服店の全力を
上げて当たらないと」と言って、職人達全員をこの仕事に掛からせました。

 一番の問題は(前回も書きましたように)「上質な生地がまだ充分に輸入
されていない」という事でした。父は生地を探しにしょっ中出掛けていまし
たが、思った程の収穫がなく困り果てた挙げ句、あるお客様・K氏に相談
しました。その方は♯269に登場した石蔵に生地を保管されていた方ですが、
お話をすると「そんな名誉な事に使って頂けるなら、何着分でも献上します
ので遠慮なく使って下さい」と仰って下さったのです。
 このお客様・K氏のお陰で、戦前に輸入されたとても良い生地を使う目処
が立ち、父も胸を撫で下ろしていました。

 さて作業の方ですが・・・生地探しに時間を取られた事もあり、縫製に掛
かってからお納めする迄に2カ月位しかない状態でした。2か月で10着と言う
とかなりのペースで進めて行かないといけません。ところがその上に、皇太
子殿下のご旅行に同行されるお二人の侍従さんからも礼服のご注文が入って
来たのです。
 普段の仕事の仕方は、職人さんがそれぞれの自宅で作業をする方式でした
が、それでは間に合わない!という事になり、急遽店の2階の一室を仕事場
にし、職人さんを一同に集めて作業をする事にしました。私も裏地のまつり
など、私なりにできる事を手伝いました。
 
 ご出発の日はとても良いお天気でした。当時の店は虎ノ門から少し新橋に
寄った所にあったのですが、殿下は皇居から桜田通りを通って横浜まで行か
れるという事でしたので、カメラを持って桜田通りまで行ってみたところ、
大変な人の数で、写真を撮る事などとてもできる状態ではありませんでした。
戦後のまだ完全に復興しきれてはいなかった日本にとって、成年をお迎えに
なった皇太子殿下が国際社会にお出になる
…という事は、日本国民にとって
大変明るく喜ばしい事だったのです。

 半年後、殿下は生地を献上して下さったK氏に、侍従さんを通してお礼の
お言葉とお写真をお渡しになり、K氏は大変感激していらっしゃいました。
 また父も侍従さんから嬉しいお話を拝聴しました。それは…英国滞在中
ヘンリープールの方が殿下の洋服のプレスに来て下さったそうなのですが、
その技術者が「立派な出来ですね。今や英国でもこれだけの仕事はなかなか
できませんよ
」と大層誉めて下さった…という事です。父にとっては何より
お土産だったのではないでしょうか。

外遊オーバーコート**
*オーバーコートは2着作りました。
 内1着は紺色のチェスターフィールド、
 もう1着が薄茶のバックベルト付アルスター(上のイラスト)でした。


〈つづく〉


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プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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