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#224.仕事の勉強の思い出 その十〜見返しを返す〜

Posted by KINN Tailor on 30.2015 修業時代の話   0 comments   0 trackback
 見返しを裁断した後は、これを前身頃に縫い合わせて返す訳ですが、これ
で前身の形が決まってしまうので、一番大切な作業と言って良いと思います。
ところが、この見返しを"返す"という作業は、思ったよりずっと難しい作業
でした。

 まず前回ご説明したように、見返し側のボタンの位置(ラペルの下端)の
所がカーブして長くなっているのを、真直ぐ押し込むようにしなければなら
ず・・・これが何とかできるようになったと思ったら、次はラペルの角(上
の端)の形を出す
のが、またまた大変だったのです。
 つまり図のように、幅と長さの両方に緩みが必要で、この加減を掴むのに
とても苦労しました。

見返し返し**

 当時の先生方が業界の技術誌などに「縫製のコツ」と称して、このラペル
の角の扱いについても載せておられましたので、それも読んで勉強しました。
 それによると「生地が返って来る(→つまり表側にする)には、生地の厚
さの3.14倍
(つまり円周率)のゆとりが必要で、角の所は角を挟んで両側に
そのゆとり量がいります」と書いてありました。
 理論としては確かにその通りなのでしょうが、ではどうやって生地の厚さ
を計ったらいいのか?
…我々はノギスなんか使いませんし、どうしたらいい
のか散々悩みました。生地の厚さはミリ単位というよりはそれ以下の場合が
多いですし、その3.14倍を計ってチョークで書く・・・なんていうのは現実
的なやり方とはとても思えません。
 悩んだ末、もう取り敢えずやってみるしかない!…と思い、角の所に生地
を溜めて縫って返してみたところ、用心し過ぎたのか生地が多過ぎてしまい
角の部分に生地溜まりができてしまいました。「これはいかん!」と思い、
縫った所を解いてゆとり量を減らしてやってみると、今度は少な過ぎて反り
返ってしまいました。
 何度も何度もやり直しをして、「あぁ上手くいった」と思って先に進んで
から見てみると、今度は表側にあまりジワが出てしまい、またやり直し…と
いうのを何度も経験しました。
 この余りジワが出る…というのには生地の厚さによって影響されるもので、
私が勉強していた当時は、冬物と夏物とでは生地の厚さが今以上に差があり
ましたから、冬物で上手くいっても夏物になると失敗する…という事が多々
ありました。
 特に剣襟には苦労させられました。それでも何度も失敗している内にコツ
を理解するというか…自然にできるようになる訳です。だんだん上手くなる
角の所を指先で摘んだ感覚で見当がつくようになるのですから、人間の手
は大したものだと思うのです。

 勉強していた頃は、この見返しがすんなり綺麗に返り、さらに身頃の形が
左右対称に揃う
と、何となくもう上着ができてしまったような安心感を得ま
したが、その後には更なる試練が待ってるのでした・・・。


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プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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