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#220.仕事の勉強の思い出 その七 〜ハ刺し〜

Posted by KINN Tailor on 02.2015 修業時代の話   0 comments   0 trackback
 身頃を芯に乗せ、ポケットの袋などを止めると、次にラペル作りにかかり
ますが、ここで"ハ刺し"という仕事が待ち構えています。

 ハ刺しというのは、ラペルをふんわりとした雰囲気に仕上げるために行う
作業です。刺した後を見ると何となく簡単そうに見えるのですが、何の印も
ないラペルに一定の感覚で糸を入れていく・・・というのはなかなか難しく、
口で説明されても一度では理解できなかったので、職人さん達が仕事をして
いるところを見せて貰う事にしました。
 その頃ジャケットを縫っている職人さんは3人いたのですが、皆やり方が
少しずつ違っていて、どの人のやり方が一番いいのか?…聞く訳にもいかず、
暫くは邪魔にならないように見ていました。一応、洋服組合が作った教科書
も見たのですが、教科書の方が私にはよくわかりませんでした。
 本には「一平方インチ(当時はまだメートル法ではありませんでした)に
つき何針位刺す」と書いてあったのですが、そうなるとラペルにチョークで
線でも引いて刺す数を整えなければならないような感じがします。
 また、当時の有名な服飾の先生が雑誌に載せていた記事によると「自分の
好みのロールになるようにしっかりと刺さなくてはならない。しかもラペル
全体としては風になびくように仕上げなければならない」とあったのですが、
勉強中の私にとってこれはなかなか難題だな・・・と思ったものです。
 暫く職人さんの仕事を見ている内にわかったことは、教科書にあったよう
に細かく刺している訳でもなく、むしろラペルの場所によってハ刺しの大き
さや角度を少しずつ変えていた
ので、そういったことがコツなのだろう…と
思うようになりました。
 最初の内はハの形が揃わなくてとても気になりました。ハ刺しをした事が
無い方のために一寸解説しますと…糸は縦方向に刺して行きます
 まず返り線側から始め下から上に向かって刺して行き、一番上まで行った
ら今度はその横に上から下に向かって刺します。

八刺しイラスト**

 そうすると刺す方向によって糸が逆に入ることになりますから、結果的に
ハの字になるのです。どれくらい布を掬うかによって斜めの角度が決まるの
ですが、私の場合は、綺麗に刺そうとすると縦長になってしまう癖がありま
した。職人さんからは、「もう少し幅が広めの方がロールは綺麗に出ますよ」
とアドバイスを貰ったりしながら練習したものです。
 実際にラペルに刺すようになってから意外に難しいと思った事が、ラペル
は左右対称
になるので刺し方も考えなければならないという事でした。

 このハ刺しは、仕立ての勉強をした人が最初悩んだり拘ったりするところ
ではないか…と思います。結果的にはラペルが綺麗にロールすればいいので
すが、最初の内はどうしてもハという字の大きさとか角度とかが気になって
しまうのです。
 後年ある工場に技術指導で行った時に、「ラペルを刺す機械」を初めて見
ました。機械ですから同じ大きさ、間隔で刺していく事ができるのですが、
ラペルの左右もちゃんと対象に刺す事ができていたので、これは大したもの
だ!…と感心したのを思い出します。


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プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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