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#011.ハ刺し

Posted by KINN Tailor on 07.2011 縫製の話   6 comments   0 trackback
 洋服を作る行程で、結構手間のかかるものの一つに「ハ刺し」(はさし)
があります。
「ハ刺し」は表から確認することはできませんが、ラペルの裏側を見てみる
と、糸が細かく刺されているのがわかると思います。
 裏側から見ると横一文字ですが、表側は糸がカタカナの「ハ」の字に掛か
っていて、そこから「ハ刺し」と云われるようになりました。

ハ刺し*

「ハ刺し」は2枚の布が同じように、反ったり、しゃくれたりするように糸
をまんべんなく刺す方法で、ラペルの他に芯作りの時などに使います。
 ずいぶん前に、洋服組合が色々と基準を作った時に「1平方センチ当たり
何針」という数字を挙げたことがありました。
 皆さんの中にも「ハ刺しは細かい程良い」と思われている方がいらっしゃ
るかも知れません。
 これは日本人の良いところであり、困ったところでもあるのですが…比較
的何事にも数を決めたがったり、細かい作業が良い、と考えがちなところが
あります。私のセミナーの際も、特に数値を決める必要がないところについ
て「何ミリ?」「何回?」という質問をよく受けます。
 あくまでも参考としての質問だと思うのですが、変に数字を答えてしまっ
て「こうしなくてはならない」にしたくないので、私はできるだけ具体的な
数字を言わないようにしています。
 服作りを始めた方によくありがちなことが、細かなことばかり気にしてし
まうことです。細かいところを気にすることは悪いことではないのですが、
実際に大切なのは、でき上がった時の全体のバランスなのです。
「何ミリ」「何針」よりも、仕上がった服を客観的に見て、どう感じるか
大事なのだと私は考えています。

 面白い話があります・・・
 昔、イギリスで作られた服を見て当時の職人たちは「英国の職人は不器用
だな」と思ったそうです。
 勿論、服全体としては素晴らしい物だったのですが、細かいところを見る
と「案外緻密でないな」と感じたのでしょう。つまり“荒さの良さ”がわから
なかった…ということなのです。

 さて、話題を「ハ刺し」に戻しましょう。
私は先述した通り、「ハ刺し」の数を決めたり、細かさを求めることはしま
せん。固めに仕上げたい場合は細かく柔らかくしたければ荒く刺すわけで、
例えばラペル全体としても場所によって荒さや刺す向きを変えたりすること
もあります。
 また、芯地などは白モ(綿の白い糸)を使用し大きな「ハ刺し」をします。
 特に気を付けていることと言えば、糸を強く締めすぎないように、緩めに
縫う
ことを心がけています。
 糸は後になって締まってくる性質のものだからです。

毎回楽しく拝読しております。

祖父の兄から聞いた戦時中の話を思い出しました。
軍用機工場に、墜落した米軍機のエンジンが持ち込まれ、
米国の技術は低い&不器用、となったのですが、
実のところは、1回の飛行毎に変える部品は荒く、
そうでない部品(つまり搭乗員の命にかかわる)は、非常に丁寧だったそうです。
品質と生産性のバランスに長けていた訳ですね。

かく申す私も、
着用を感じさせないほど柔らかい仕立てのスーツを着ているのですが、
職場の同僚たちには、ピシッとしていない、と不評です。



2011.02.09 13:01 | URL | お名前 #- [edit]
貴重なお話をありがとうございました。
軍用機は目的がはっきりしているためでしょうか・・・
いかにも米国らしいお話だと思います。
今後とも宜しくお願い致します。
2011.02.10 10:55 | URL | お名前 #- [edit]
一般の〈洋服を愛する者〉です。いつも楽しみに拝読しています。
今やすっかり月曜が楽しみになってしまいました。
素人じみた質問で恐縮ながら・・・
「ハ刺し」の記事のエンディングに「糸は後になって締まってくる」とありましたが、これは湿度とかに関係あることなのでしょうか?
そうであれば日本の風土では、着る程に襟は固くなる…ということでしょうか?
2011.02.15 12:00 | URL | コージ小林 #- [edit]
コージ小林様
説明が足りず失礼致しました。
「糸は後になって締まってくる性質」というのは、日常生活で締まるのではなく、八刺しをした後にスチームとアイロンをかける作業をする為、最初よりは締まる…という意味です。
「湿気」についてですが、厳密にいうと影響があります。
…ですが、定期的にクリーニングなどでケアすれば問題ありません。
貴重なご質問ありがとうございました。
2011.02.15 12:07 | URL | 服部晋 #- [edit]
はじめてコメントさせていただきます。

ハ刺しひとつとっても、こんなに奥が深いとは驚きました。

細かいことを気にして、全体のバランスがおざなりになる。
洋服だけでなく、日本の車、オートバイ、家電といった工業製品にも似たことがあるように感じます。

一方、織部焼きのような、緻密さとはちがう美を愛でた日本人には“荒さの良さ”をモノにできる資質ははあるはず、と信じたいところです。

ともあれ、このような、実際に服をつくっている方のブログはとても貴重ですので、今後も楽しみにしております。
2011.02.21 23:23 | URL | 秋葉原愛好家 #- [edit]
秋葉原愛好家様

コメントをありがとうございます。
「八刺し」など専門的な話に興味を持って頂き、大変嬉しく思います。
”荒さ”と”いい加減(良い加減)”の折り合いをどうつけるか…も、
バランス感覚と云えるでしょうね。

今後とも宜しくお願い致します。
2011.02.23 11:44 | URL | 服部晋 #- [edit]


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プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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