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#93.直しの話 その参

Posted by KINN Tailor on 10.2012 補正の話   0 comments   0 trackback
 いわゆる「直し」には、単にサイズを変えるだけでなく、補修的な要素が
強いものもあります。
 比較的よく承るのが裏地を取り替える作業です。パンツの腰裏は擦れて
しまいますし、ファスナーを付け替える事もあります。またジャケットの
釦ホールをかがり直したり、袖口や前の端などが擦れてしまった場合には縁
をとって綺麗に直すこともあります。
 今回の「直しは」、この究極の補修とも言えるお話です。

 私共も色々な直しをしますが、ある直しに関しては専門外の分野で、お客
様からお預かりした後に、プロの方に依頼して直して頂くものがあります。
それは「かけはぎ」です。利用された方も多いと思いますが、作業について
少し説明したいと思います。
 かけはぎは、洋服が破れてしまったり穴が開いてしまった場合に、その服
の”とも布”をあてがい、穴の周りにとも布の糸を一本一本差し込んで穴を塞
いでいく…というものです。よく煙草の火で服に穴が開いてしまった時など
に利用しますが、それはそれは見事に直してくれます。
 余談ですが、モール工芸をやっていた私の叔父が若い頃にかけはぎを習
うつもりでいたそうなのですが、非常に細かい作業の連続で目を酷使すると
いう事から、本業に差し障りが出ると困るという事で習うのを止めた…という
話を聞いた事があります。
 それ位細かい作業なのですが、私がいつもお願いしているかけはぎ屋さん
は大変なベテランの方で、どこを直して貰ったのか全く分からない程に仕上
がって来ます。
 今回の究極の補修は、このかけはぎの技術があったからこそできた事な
のです。

 古くからのお客様が長年ご愛用された三つ揃いのスーツがあったのです
が、かなり長いことお使い頂いたため、襟の後の部分がすっかり擦り減って
穴が開いてしまいました。
 普段は襟の直しができるように生地を取っておくのですが、それが必ず使
えるとも限らないのです。…と言うのも、長い間お召しになった場合は、どう
しても生地が焼けて色が変わってしまっている事が多く、保管していた生地
を付けると逆におかしくなってしまうことがあります。
 そうなると襟を付け替えるだけの長さの布を、ジャケットとパンツから取り出
す事は不可能な訳です。お客様は、さんざんご相談した挙げ句に「ベストを
潰しても構わないから何とかしてみて下さい」と仰いました。
 確かに、ベストの身頃は襟の半分位の布が取れますから、物は試し…と
図のようにベストの両側から布地を取り、真ん中ではぎ足して上襟分の布を
作ってみることにしました。
        直し3 ベスト*
 この方法ですと、布の中心に”はぎ足した”線が入ってしまう事になるので
すが、実に上手くはぎ足してくれて、ともかく襟一枚分の長さになり、上襟
の掛け替えは成功した訳です。
 このお客様は、それは本当に喜んで下さいましたが、とにかく”かけはぎ”
という技術でこんない素晴らしい事ができるのだ!…という経験をさせて頂
いた次第です。


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プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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