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#156.暮れのお客様

Posted by KINN Tailor on 25.2013 懐かしい話   0 comments   0 trackback
 父の代の話になりますが、毎年暮れになると必ず私共にお見えになるお客
様がいらっしゃいました。
 もともと東京出身の方なのですが、お仕事が東北から北海道を中心に展開
されていたので、年間の殆どは北海道で生活をされていたようです。
 今なら飛行機や新幹線などがありますので何でもないのかも知れませんが、
当時北海道は大変遠い所でした。
 そのお客様は毎年暮れになると東京に戻られて数週間滞在されて、その後
また北海道へ行かれてしまう訳です。その短い期間に必ず私共の店にお越し
になり、1着ご注文なさいます。
 そして仮縫いまではその滞在中に済ませるのですが、納品は次の年の暮れ
にする…という風に決まっていました。
 つまり暮れにお越しの際に、前年の暮れにご注文された服の支払いをされ
てお持ち帰りになると同時に、次の一着を注文なさるのです。

 一年も先の服を作ってしまって大丈夫か?…と思われる方もいらっしゃる
かと思いますが、当時は注文服が中心の時代ですので、お客様お1人お1人
のデザインというのが決まっていました。世間の流行はありますが、大体は
その方独自のスタイルがあって、そこにその方なりの流行をプラスする…と
いった感じです。ですから翌年の服を注文してしまっても、特に廃れた感じ
になる事はありませんでした。
 ただ大勢いらっしゃるお客様の中でも、これ程長い期間を掛けて・・・と
いうのはさすがに珍しいケースでした。
 お作りするのが1年がかりで良い…という事ですが、お勘定を頂くのも1年
がかりになる…という訳です。

 どうしてそのような習慣になったかを私は知りませんでしたが、私が仕事
を始めた頃には、既にそのちょっと不思議なサイクル?が10年以上続いてい
ました。それから更に10年以上も!そのような状態が続き、その方がお見え
になると「あぁ、もう暮れなんだな・・・」と感じたりしたものです。
 その内にその方がお年を召してご注文もなくなってしまいましたが、お客
様との信頼関係があったからこそ続いた訳で、「注文洋服」の一つの面を表
している…と言えるのかも知れませんね。
  

プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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