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#169.前下がりの話

Posted by KINN Tailor on 03.2014 オーバーコートの話   0 comments   0 trackback
 昨年、ある女性のお客様からコートの件で相談を受けました。

 それは、その方がもう10年以上前に購入されたムートンのコートがかなり
くたびれてきたので買い替えたいのだけれど、同じデザインの物がもうない
ので作って貰えないか…という事でした。お受けしたい気持ちは山々でした
が、ムートンは専門外ですのでお断りしました。
 すると数日後に再び連絡が入り「仕立ててくれる所を見つけたので、前の
ムートンコートから型紙
を作ってくれないか」と仰るのです。
 話によると、仕立てるのは海外の工場のためデザインの説明等を直接する
事はできないそうで、「型紙が全て」との事でした。お客様とは長いお付き
合いでしたので、特別にコートから型を抜いてお渡ししました。

 そのお客様が先日新しいコートを着てお越しになりました。以前のコート
は膝丈でしたが、「折角仕立てるのだから」という事でロングコートになさ
っていました。
 すると「何だかこのコートは前が長すぎると言うか、ちょっとつんのめっ
いるような感じに見えてしまうのだけれど…」と仰るので拝見すると、確
かに前がとても長く見えます。コートを脱いで頂いて再度見てみると、前下
がりが付き過ぎている
ような気がしました。試しに角差しを当ててみると、
確かに前下がりが付き過ぎていました。

前下がりイラスト**

 ジャケットやコートは前中心が上がって見えるととてもおかしいので、
下がり
を付けます。一般的には「裾から○○㎝計って前下がりを付ける」とい
うやり方をしますが、私の場合は以前にもお話しをしたように、横の地の目
を大切にしたいので、裾に付け足すのではなく、ポケットを利用して腹ぐせ
を取って裾
(ポケットの下から脇)を上げる事によって前下がりを付ける…
という方法を取ります。
 どの位付けるかは、一般には4~5cm位で、私の場合で約2.5~3cm位の前
下がりになります。デザインや好みにもよりますので、どれが正しいとは言
えません。ただ今回のようなロングコートの場合は、長さだけではなく裾の
広がり具合
も考慮しなければなりません。
 角差しを当ててみて、このコートの場合は脇から直角にラインを引いて、
それをそのまま前下がりにしてしまったようなので、これではいささか多過
ぎる…という事になります。
 お客様と相談した結果、こちらで裾をカットして解決する事ができました。
ほんの数㎝の事なのですが、見た目がすっきりしただけでなく、歩きやすく
もなったそうです。やはり動きやすさと美しいラインというのは微妙なバラ
ンスで保たれているのだな…と改めて痛感しました。
 それにしても、初めての所に型紙を送って仕立ててもらう…という方法は
どういった物ができてくるかわからない訳ですから、それなりに覚悟がいる
ものだろうなぁ…と思いました。

#166.袖のワナ取り

Posted by KINN Tailor on 10.2014 オーバーコートの話   2 comments   0 trackback
 今回はオーバーコートの裁断の話です。

 オーバーコートの場合は起毛している生地を使う事が多いのですが、その
場合生地の向きによって上下がある時があります。これは織る段階で上下が
できる場合と、仕上げの時に生地にローラーをかける事によってできる場合
とがあります。
 織ってできる上下は、生地を見ればわかるので良いのですが、ローラーに
よってできた上下は触ってみないとわからない場合も多く、裁断をする前に
掌で生地を撫でてみて、向きによって生地の色が変わるかどうかを確かめな
ければなりません。
 通常は毛の向きが上から下に向かっている方向を服の上下とします。逆向
きにすると色が濃くなって見えてしまいますので、同じ向きに裁断をしなけ
ればならず、型紙を逆さまにして生地に無駄が出ないように差し込んでいく
…という芸当はできないのです。
 私たちはこの向きの事を「一方通行」と呼び、「この生地は一方通行なの
で裁つのに苦労しました・・・」などと言ったりします。
 またオーバーコートの場合は、襟が大きいデザインの場合が多いので長さ、
幅共に生地が必要ですし、ポケットも共布で作りますので、ジャケットに比
べるとこういった付属用の生地も必要になるのです。
 またお客様の中には、コートの襟を立てた時の事を考えて襟の裏側を共布
仕立てる事を希望される方が少なくありません(普通はカラークロスと云
う別の布を使用します)。その場合、予想以上に生地を使う事になる訳です。
 そして更に問題なのは・・・と言ってもここからは私共の場合だけなので
すが…私共では、袖口から先に袖の内側へ折り返す分をかなり多めに付ける
ようにしています。普通は5cm位なのですが10cmは付けます。これは飾り釦
の所をしっかりさせるためです(通常は別の生地を付ける事が多いようです)。
 このように袖を長く裁断するとなると、普通の裁断方法ではうまく収まら
なくなって来ます。
 普通の裁断法で説明しますと…まず前身と見返しを並べて取り、その横に
後身と袖を並べて取ります。そうすると図のように一番右側の所で襟が取れ
ます。

普通のオーバーの裁断**

 ところが私共の袖をこの裁断方法で裁つと、袖が長い分襟が取れなくなっ
てしまうのです。そこで私の父が考えて工夫したのが「袖のワナ取り」です。
 図のように下袖を一枚づつ分けて取ります。まず、下袖Aを2枚重ねてある
生地の上1枚だけで裁ち、もう一枚の下袖Bはワナになっている所を広げて裁
ちます。そうして下袖Aを裁った後の下側の布を広げてみると、襟やポケット
などを取るのに充分な布が残っている…という訳です。

うちの裁断**

 少々大袈裟な言い方ですが、「裁断は2枚重ねた布を裁つ」という常識を
破ってワナを広げて取る方法を考えた父は、やはり頭が柔らかかったのだな
…と思います。
 私がオーバーコートの裁断をする時も殆どこの方法にしていますので、袖
の返しをたっぷり取っても付属の生地の心配をせずに、且つ無駄なく裁断が
できている訳です。

#152. カシミヤのオーバーコート

Posted by KINN Tailor on 28.2013 オーバーコートの話   0 comments   0 trackback
 日本で過ごしやすい季節とされているのは、やはり春と秋ですが、温暖化
の影響からなのか春と秋がとても短い・・・いや殆どなくなってしまったよ
うな気さえします。従来ならこの10月は最も秋らしさが感じられ、ちょっと
どこかに出かけてみたくなるものですが、今年は大変残念な事に台風の月に
なってしまいました。

 そんな天候の影響で肌寒い日が多い事もあり、今年はオーバーコートのご
注文が例年よりも多くなっています。
 私共が頂戴するオーダーは殆どがロングのオーバーコートになりますが、
先日、久し振りにフロックオーバーコートのご注文を頂きました。
 フロックオーバーコートは非常にクラシカルで重厚な印象のコートです。
これを少し変形させた物にパルトーがあります。いずれも特に礼装用という
訳ではなく"礼装のような"デザインなので、カジュアルに着るには少々敷居
が高くなるのか…ご注文がそれ程多くはないのですが、私としてはやはり懐
かしいというか…こういった伝統的なデザインのご注文を頂くと嬉しくなり
ます。

カシミヤのコートイラスト**

 さてオーバーの素材についてですが、保温性の良さや軽さの面からやはり
カシミヤを選ばれる方が多いようです。
 ここでカシミヤの話を少ししますと、カシミヤ(Cashmere)はその名前
の由来であるカシミール地方の物が有名で、特に寒い高地で取れる物が上等
とされています。
 近年ではモンゴル産のカシミヤで、彼の国の英雄チンギス・カンの名前を
付けたカーンカシミヤも上質な生地として知られています。
 また、ロシアとヨーロッパの間にキルギス地方がありますが、ここに生息
するカシミヤと羊が自然交配して生まれた動物がいます。希少なため、この
地方以外には出回らなかったのですが、数年前からヨーロッパの大手毛織物
会社が製品を作り、キルギスホワイトという名前で扱うようになりました。
 この他にもごく上等なカシミヤの長い毛で織られたスパンカシミヤなども
あります。キルギスホワイトやスパンカシミヤはコート向きではありません
が、高級なスーツ用の生地になります。
 また毛の加工をしていくと最後にクズが残ります。それを化繊糸に巻き付
けて織ると、比較的安価なカシミヤ生地が誕生するのですが、カシミヤの良
いところは、この方法でもカシミヤの風合いがちゃんと出る…という事です。

 カシミヤは全世界で愛されていますが、特に日本人が好むようで、カシミ
ヤの価格を上げてしまったのは日本人…と言われています。また面白い事に
英国ではあまり使われていないのが現状です。
 やはり自国で取れるウール、シェトランドツィード、ハリスツィードなど
が人気のようです。
 最後に…カシミヤは羊ではなく山羊の毛という事をご存知でしたか?
 念のため・・・

#147.ロングコート

Posted by KINN Tailor on 23.2013 オーバーコートの話   0 comments   0 trackback
 台風18号は各地で猛威を振い、被害も相当なものでした。竜巻が発生した
数も過去最高との発表があったようですが、そもそも竜巻が日本で起きると
いうのが信じられないという感じです。
 少し前迄、竜巻は海外の大平原のようなところで発生する…という印象が
ありましたので、日本のような狭い土地の住宅地で竜巻の被害に合う事など
想像もできませんでした。
 温暖化のせいなのか…環境の変化により、これからは何が起きても不思議
ではない気がします。
 
 台風18号が去った後は、あの猛暑が信じられないくらいの爽やかな日が続
いています。何でも奥日光では20日も早く霜が降りたとかで、これにも驚か
されます。
 もしかすると、今年も去年のように寒くなるという事なのでしょうか?夏
の暑さも冬の寒さも極端なのは困りますが、どちらかというと寒い方がまだ
どうにかなる感じがしますので、気持ち的には楽になりました。
 またここ数年の事を言いますと、私共の店は夏は大変暇になります。やは
り暑さが厳しすぎて、服を仕立てる…という気にはならないのでしょう。ご
注文を頂くにしても、冬物のオーダーが殆どです。
 そして皆さん「まだ先ですからゆっくり仕立ててもらえればいいです」と
仰いますので、暇な訳です。
 ですからここ2~3日のように秋の気配がしてくると、少しずつですが仕事
にも活気が出て、私も元気になります。

 昨年の事を思い返すと、寒かったせいもありましたが、オーバーコート
オーダーが比較的多かった気がします。
 最近若い方向けのコートなどはショート丈の物が中心のようですが、私共
では昔と変わらずロングコートのオーダーが中心です。
 ロングのコートは何と言っても、歩いた時の裾の振れ方が優雅であるのが
一番の魅力ではないでしょうか。

 昔、お客様からこんな話を伺いました。
  ブログによく登場するN氏ですが、N氏は毎年ヨーロッパへ旅行されてい
 ました。
 飛行機からタラップで降りて来ていた時代の事ですが、ある時空港のロビ
ーで、到着した飛行機から降りてくる人を何気なく見ていらした時に感じた
そうです。
「ちょっと面白いことに気づいたよ。タラップから降りて空港ビル迄歩く時
なんだけど、外国人は男女共、大股でサッサと歩くね。それに比べると日本
人は足の運びが小さいし、歩き方が遅いよ。これは服の恰好からするとかな
り不利だと思うね」
「彼らのような歩き方じゃないと、ロングコートは綺麗に見えないね」…と
の事でした。
 N氏は、「ゴルフのスイングをした時に美しく見える服」というご注文を
なさるだけあって、そういう細かな所まで実に良く観察されているのだ…と
大変参考になりました。
 よく「服に着せられないように」と言いますが、その第一歩は姿勢や歩き
なのかも知れません。自分の歩いている姿はなかなか見れませんが、気を
つけたいものです。

#112.ロングのオーバーコート

Posted by KINN Tailor on 21.2013 オーバーコートの話   0 comments   0 trackback
 先日あるお客様がお越しになった際に、オーバーコートの話が出ました。
そのお客様は大変お洒落な方で洋服の事に大変詳しくていらっしゃいます。
私共には一昨年からお越し頂いていますが、かなり沢山の洋服をお持ちなの
ではないかと思いました。
 オーバーコートも何種類かお持ちとの事で、生地やデザインの話にまで及
び「ラグランセットインを前後で変えているデザイン」の話になりました。
 最近はあまり見かけなくなりましたが、片側ラグラン、片側セットインと
いうコートは確かにありましたし、実際にオーダーを受けてお作りした事も
あります。
 私が仕立たのは、前がセットイン後がラグランというタイプです。ラグ
ランは肩や腕が楽に動くようになりますし、セットインはきっちりした印象
になりますので、このデザインは理に適っているように思います。
ワンサイドラグイン**
 もう一方の…前がラグラン後がセットインというデザインは、私はどう
も好きになれません。もともとラグランよりもセットインの方が好きという
事もありますが、前をラグランにするなら後もラグランでいいような気がし
てしまうのです。
 随分前になりますが、ある服装雑誌で前ラグラン派、後ラグラン派が論争
していた事もある位ですから、一時は結構流行ったデザインのようです。
 最近は温暖化の影響で、あまりコートが話題になることもなかった気がし
ますが、今年は寒い日が多いせいか、コートや昔の厚い生地の話になりがち
です。
 また、お客様からEqualityでコートはないのか?…というお問い合わせも
頂いています。
 実はEqualityを始めた年に、冬はオーバーコートを作る予定でした。私の
好みもありますが、オーバーコートをラインナップにするのであれば、やは
り礼装の際にも使えるような”チェスターフィールド”から始めるべきと考え、
準備をしていたのです。
 ところが色々と情報を集めてみますと、最近はロングのオーバーコートを
着る事があまりない…という意見が圧倒的で、何となく発表せずに来てしま
ったのです。
 今年は寒さが例年より1カ月位前倒しで来ているとの事ですが、その分春
が早く来るという訳ではなく、厳しい寒さはしばらく続くようです。
 その意味では、オーバーコートを始めるのには丁度良いタイミングかも知
れない(今からではむしろ遅いかも知れませんが…)という事とになり、
Equalityカシミヤ100%チェスターフィールドを作ることにしました。
 準備が整いましたらHPで紹介させて頂きますので、是非ご覧下さい。
  

プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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