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#232.仕事の勉強の思い出 その十八 ~袖④~

Posted by KINN Tailor on 01.2015 修業時代の話   2 comments   0 trackback
 今日は袖付けの話です。

 袖付けをするには、まず山袖と下袖をイセ込む必要があります。
 最初に袖付けを習った時、私の店では英国のようにやや太めの袖を多めに
イセ込んで
運動量を出す方法でしたから、イセ込んだ所を均等に馴染ませる
のがなかなか難しかったのです。特に当時の下袖はイセ込む量が多かったの
で、袖を付けた後に背中の方から見て袖の後ろに"弛み"(たるみ)が出ない
ようにしなければなりません。
 職人さん達の仕事を見ていると、袖穴の所に物差しを当てて、大体の見当
を付けておいてから糸を入れて引き、指で加減をしながら慣らしていくと、
何となく上手い具合にイセ込まれている・・・という感じでした。
 長年の修行による感覚なのでしょうが、どの辺をどの位…という事がある
ような、ないような・・・とにかく感覚なのだな…という事しか解りません
でした。このイセ込み加減を覚えるのには相当な時間がかかったような気が
します。
 その後暫くしてから、前肩に仕立てる方向に仕事が変わって行き、前々回
(#230)でお話したように袖山の形も変わり、イセ込む量は以前よりは少
なくなりましたが、今でも私の作る袖はイセ込みが多い方です。

 さて、次は身頃に袖を仮付けして縫っていきます。縫い合せはミシンでも
手縫いでも良いのですが、右袖と左袖とでは糸が入っていく方向が逆になり
ます。背中側から前に縫われるか、前身側から背中に縫われるか…という事
になる訳です。
 これはどうしようもない事なのですが、ミシンは布を押さえて縫うので、
布がずれる量が手縫いよりも多い気がして、私は手で縫うようにしている
のです。
 袖を付け終わると、身頃と袖の位置を安定させるため"袖綴じ"を入れます。
シロモを2本取りにして、袖の縫目ギリギリの所へ本返しで入れていくので
すが、これが実はとても難しい作業でした。
 と言うのも、糸を強く引き過ぎると縫い目が固くってしまい袖が動き難く
なってしまいますし、ゆる過ぎるとグズグズになってしまいます。父を始め
色々な人に話を聞いてみると、どちらかと言うと緩めの方が良いようでした。
 袖がせっかく上手く付いたのに、綴じを入れたらダメになってしまった…
という例は決して少なくないのです。
 綴じを入れ終わり、袖を垂らしてみて綺麗に落ちるのを見て、やっと袖付
けが終わった事になる訳です。

 袖について随分色々と話をさせて頂きましたが、動かし易くて美しい袖
というのは服作りの永遠のテーマの一つなのかも知れないと思っています。
 最後に、上手く付いた袖とそうでない袖を紹介しておきます。

袖のイラスト**

#231.仕事の勉強の思い出 その十七 ~袖③~

Posted by KINN Tailor on 25.2015 修業時代の話   0 comments   0 trackback
 袖を作る作業で結構手間がかかるのが、袖口です。
 袖口にはいくつかの種類があります。

袖口の種類

 私の店は穴を開ける開けないに拘らず、"本開き"に仕上げる…と教わった
ので実際にでき上がった服の袖口を見てみると、私が本で勉強したやり方と
は少々違っていました。
 本に載っていた本開きは、袖に折り返しを付けて裁断し、折り返しを折っ
て袖口を仕上げてから穴を開ける方法でした。ところが私の店では、穴を開
ける所に生地を付けて裁断し、そこを内側に折って穴を開けます
穴を仕上
げてから袖口の折り返しを穴が塞がらないように斜めに折って仕上げます。

折った所が穴にかかってしまう場合は、縫い付けずに浮かせておく…という
方法でした。

袖口の作り方**

 この作り方はかなり手間がかかるやり方で、教わった頃はどうにかもう少
し作りやすくできないものか、色々考えました。
 例えば…最後に袖口の始末をするのではなく、山袖と下袖の後ろ側だけを
縫ったところで先に穴を開けたらどうだろう・・・と思い試してみましたが、
後から袖の前側を縫ってアイロンで縫目を割る方が余程大変だったので諦め
ました。
 この本開きの方法は英国流だそうで、後から袖を長くする事ができる仕上
げ方
なのです。最近でこそあまり聞かなくなりましたが、英国では自分が着
ていた服を息子に譲るという事が良くあったようで、だいたい子供の方が背
が高い事が多かったので、袖の長さを出せるようにしていたのだそうです。
 ですから穴を開ける時も全部開けるのではなく、例えば4つ開けるとする
と、2つだけ開けて後は飾りにしておきます。そうすれば長くした時に飾り
のかがりを取って新しい穴を下に開ければよい
訳です。
 誰が考えたのか知りませんが、なかなか上手いやり方だな…と思いました。
当時のツィードなどはとても固く、2代目が着る頃に丁度身体に馴染む…と
云われていた位ですから、実際に親から子へ・・・という事が行われていた
のだと思います。
 私共の店でも、親御さんの服を直して着る方が多くいらっしゃったので、
この本開き仕上げのお陰で袖を長くする事ができた例は多々ありました。

 袖口作りで面白いと思ったの事があります。かなり後になってイタリアの
服が流行り出した頃の事ですが・・・袖口の釦の位置が英国流だと一番目の
釦が袖口から2.7cm〜3cmの所にありますが、イタリア流だと4cm位から
始まります。また釦同士を少し重ねたりする事もありますし、穴を開ける時
は英国のように上2つを開けないという事はせず、全部開けます。
 お国柄によって微妙な違いが出ていて、実に面白いと思ったものです。

#230.仕事の勉強の思い出 その十六 ~袖②~

Posted by KINN Tailor on 18.2015 修業時代の話   2 comments   0 trackback
 袖を作るための採寸方法は色々あります。
 袖の長さを決めるための採寸も、一般的には山袖側を計る…つまり肩の上
から手首まで計る方法と下袖側だけを計って山袖側を割り出す方法、そして
英国流の方法(図a.)があります。英国流は鎌深の1/2の所からスタートして
腕の後側を通り、肘を曲げて手首まで計るので、正に腕の動きの寸法を計る
方法です。

 最初私が勉強した本は、下袖を測って割り出す方法でしたが、色々と試行
錯誤した結果、山袖丈下袖丈、そして英国流の肘を通る寸法(これを
計る時の形から"L寸"と呼ぶ事にしました)の4つを使う事にしました。

袖㈪ 図a**

 次に山袖と下袖の形を描くためにアームホールの大きさを計ります。
 前回お話ししたように、アームホールを細かく分けて採寸する事にしたの
ですが、ここからの難問は"袖山の形をどう描くか"・・・でした。
 普通は山の一番高い所が肩の縫目に合うようにします。この方法は袖を付
けた時に山の前側が綺麗に膨らみ、袖下がりが美しくなります。
 私は更に前肩にしたかったので、このカーブのままイセ込む所を前に動か
して付けてみたところ、袖が引っ張られて斜めのシワが出てしまいました。
 そこで山の一番高い所を前になるように描いて付けてみると、前肩にはな
るのですが山の前側の膨らみが少なくなってしまい、袖が綺麗に見えません。
袖㈪ 図b**
 そこで父に相談してみたところ、一寸面白いアイデアを出してくれました。
それは、膨らませたい箇所に余分に布を付けておいて、それを折って一緒に
イセ込む
…というものでした。布を厚くして膨らむ力が強くなるようにしよ
う・・・という訳です。
袖㈪ 図c**

 なる程!これはなかなか良いのではないか・・・と早速試してみました。
ところが、確かに袖山の前の膨らみは強くなるのですが、カーブしている所
を折る…というのがとても難しく、苦戦しました。綺麗に折れないのだった
ら布を切って重ねてイセ込んだらどうか・・・とも思ったものですが、それ
だったらマウントロール(袖の山を綺麗に膨らませるために入れる裄綿)を
少し大き目にすればいいじゃないか・・・という結論に落ち着きました。

 父の案はとてもユニークだったので、一寸残念に思いましたが、このよう
"何でも試してみる"…というのを修行時代からやらせて貰えていたのが、
後の私流の新しい方法を考える礎になっているのだろうと思いますし、こう
した試行錯誤自体が、どれも楽しく大切な思い出でもあるのです。


#229.仕事の勉強の思い出 その十五 ~袖①~

Posted by KINN Tailor on 11.2015 修業時代の話   0 comments   0 trackback
 私の製図についての勉強の仕方は、父や職人さんから指導を受けるのでは
なく、父から渡された外国の製図本をよく読んで、それに習って自分で製図
をしてから父に見てもらう…という方法でした。

 ですから、もまず自分で製図をしました。その際に少々不思議に思った
のは、私が勉強していた教科書では当時最新のやり方だった短寸式(Short
Measure System)で、胸寸式よりは細かいパートに分けて採寸をする方法
だったのですが、袖の製図の仕方については他に比べて比較的単純だった…
という事です。例えばジャケットなどは身体を細かく分けて採寸をしたもの
を元に製図しますが、袖はアームホールの大きさを計り、上半分で山袖、下
半分で下袖を製図します。
 父に聞いてみると、「この方法で袖の形にはなるけれど、実際に着る事
考えると、これでは足りない所があるよ」と言って説明してくれました。
 足りない所というのは、腕の動きについて行けるか・・・という事なのだ
そうで、英国流の裁断は袖を幾分大きめに作り、身頃に付ける時のイセ込み
を多く
するのだそうです。
「つまり、イセ込みを多くする事で袖が動きやすくなるのだよ。特に下袖を
大きめにして沢山イセると、腕を上げた時の動きが楽になるよ」とのでした。
 確かに、いわゆる"綺麗に付いている袖"は、手を上げた時など服の脇まで
つられて上がってしまい、動きだけでなく見た目も悪くなります。ただ下袖
のイセ込を多くし過ぎると手を下げた時の余りが多くなるので、これも見た
目が悪くなってしまいます。つまり、このバランスがとても難しいのだそう
です。父から「もう少し細かい寸法を使って、動きやすく、手を下げた時も
綺麗な袖
ができるように考えてみなさい」と難問を出されました。
 そこで「袖の短寸式」というのを作ってみるか!…と、大それた事を考え、
暫く真剣に研究してみました。

 結果としてわかった事は…袖が綺麗に下がるためには山袖側の形が大切で、
動きを良くするには下袖側の形が大切という事でした。更に教科書にあった
「アームホールの寸法を山袖と下袖に分ける」という単純なものでは上手く
いかない…という事でした。
 その頃、よく日本橋の裏の方にあった輸入本屋さんに行っていたのですが、
ある日そこで売られていた英国の教科書の中に「Direct Measure System」
という袖の製図方法を見つけました。
 それは、アームホール寸法を幾つかに分割して製図をする方法で、まさに
試してみたかった方法だったので、それを参考にして裁断法を考えました。
 結果として、でき上がった製図法を図解するとこのようになります。
袖付けその1**
袖付けその2**
 この製図にたどり着くまでに相当な時間がかかりましたが、試作した結果
も良く、なかなかの出来となりました。
 父からも「これからウチの袖はこのやり方にしよう!」と、お墨付きも貰
えたので大満足の結果となった訳ですが、これはアームホールに対する袖の
大きさと袖の動きを良くする
…という問題が解決しただけで、この後は袖の
ラインの美しさ
等々・・・気になる所が幾つも出て来たのです。

#228.仕事の勉強の思い出 その十四 ~上襟掛け~

Posted by KINN Tailor on 27.2015 修業時代の話   5 comments   0 trackback
 襟芯を身頃に付け終わると、上襟を掛ける作業になります。

 襟の構造について簡単に説明しますと・・・
 襟芯は身頃に付くと襟山で折れて、カラー下襟(襟腰)に別れます。
上襟1**
 つまりカラー側は外側にカーブしていて、下襟は内側にカーブしています。
ここに一枚の布で裁った上襟を掛けていく訳です。従ってカラー側はカーブ
に合わせてシワが寄らないように
、そして突っ張り過ぎないように付けなけ
ればなりませんし、下襟側は布を上手く縮めながら付けなければなりません。
 襟の形は頭に入っているのですが、実際に上襟を掛けてみて、初めてこの
難しさを実感しました。

 まず初めに上襟がそれぞれのカーブに合うようアイロンでクセを取ります
職人さんは「S字型にクセを取るんですよ」と言いながらアイロンの動かし方
を教えてくれましたが、布地を捻るような操作はなかなか複雑でコツを掴む
のに少々時間がかかりました。
上襟2**
 何とかクセ取りのコツを掴んだものの…実はそれからの方が大変でした。
下のイラストの順番に躾糸を入れて止めていく訳ですが、上手く付いたと思
って試しに着てみるとシワが出てしまいました。カラーは肩から先がそれま
でのカーブとは逆側にシャクレる
ので、そこにツレジワが出てしまうのです。
 襟は首から肩にかけての場所に付く訳ですから、幾つもの複雑なカーブを
表現しなければならなかったのです
上襟3**
 色々と勉強していく内に気付いた事は、首の後の所は芯に沿って平らに
ければ良く、途中から肩へと繋がる所は、着た時に引きジワがでないように
緩みが必要だ…という事でした。この緩み量は意外と必要で、片側で1cm位
は長くしなければ綺麗に付ける事ができなかったのです。

 更に意外だったのは、肩からゴージに掛けての部分はシャクレるので長さ
ではなく幅が必要だったという事です。父は「長めの襟を作るために上襟に
付けるゆとりで最も必要なのが、この幅の部分
だ」と言っていました。長さ
ではなく幅
に着目したのは大きな発見だったようです。
上襟4**
 前回お話したように、この頃は丁度父が襟の研究をしていて、「長い襟に
長い上襟を掛ける」
という方法を始めていました。職人さんたちはまだ以前
長さの襟を作っていたので、この"長さや幅の頃合"というのを誰もわかって
おらず、手探り状態でした。
 襟で特に厄介だった事は、ボディに着せてみて綺麗に仕上がって見えても、
実際に袖を通してみるとシワが出たりした事です。身体の影響を受けやすい
場所
なのだな・・・と、つくづく思いました。

 長めの襟は当時の私にとって難題中の難題だった訳ですが、この時襟の難
しさを痛感した事が、後に「プルダウン」を研究する上で大いに役立った事
は間違いありません。
  

プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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