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#36. プルダウン:その参
襟が浮いてしまう原因が、どうも「アゴを伸ばした時、曲線の部分が直線
に近くなること」であるらしい…と判ったので、アゴグリ(アゴのカーブ)
の作り方を、伸ばした時に丁度良い形になるように変えてみました。
つまり、図aを基本形とすると、図bのようにするのです。
図aを伸ばすと図cになりますが、図bを伸ばすと図dになり、もともと
のアゴグリの形に近くなります。
この状態にしてから襟を付けてみたら、見事に"浮き上がり"が解消したの
です。

次に、アゴグリのどこを中心に伸ばすのが良いのか…を研究しました。
最初は均一に伸ばしてみたのですが、どうも上手くありません。次に下の
方を伸ばしてみると、肩のくせが上手く出ませんでした。
結果としては、ネックポイントに近い部分を伸ばすと具合が良いことが判
りました。
そこで、今まで後から付けていた襟を、まずネックポイントの所にイセ込
んで付け、一緒に伸ばすことにしてみました。
そうすると、アゴグリも襟も同じように伸び、綺麗に仕上がったのです。
これで、幾つかの難題が解決し、プルダウンが完成した訳です。
このプルダウンを完成させたおかけで、嬉しいオマケも付いて来ました。
アームホールの形が卵形の尖った形になり、それに合わせて袖を製図する
と、今までよりも袖山の頂上が前になったのです。

これは、私の袖の裁断に大きな影響を与えることになったのですが、これ
により腕の動きが良くなり、横から見て独特の形状を持つものになりました。
長い時間を費やしましたが、「襟・肩・袖を一体に作る」というテーマも
実現したことになります。
これらすべての始まりが、最初に記述した…襟周りにこだわりのあるお客
様T氏がいらしたからで、完成するまでの間色々と試させて頂き、また沢山
のご意見を頂けたことにも深く感謝しています。
"ものづくり"に終着点はありません。今後も更なるスーパープルダウンを、
皆様にご紹介できるよう、精進していきたいと思っています。
に近くなること」であるらしい…と判ったので、アゴグリ(アゴのカーブ)
の作り方を、伸ばした時に丁度良い形になるように変えてみました。
つまり、図aを基本形とすると、図bのようにするのです。
図aを伸ばすと図cになりますが、図bを伸ばすと図dになり、もともと
のアゴグリの形に近くなります。
この状態にしてから襟を付けてみたら、見事に"浮き上がり"が解消したの
です。

次に、アゴグリのどこを中心に伸ばすのが良いのか…を研究しました。
最初は均一に伸ばしてみたのですが、どうも上手くありません。次に下の
方を伸ばしてみると、肩のくせが上手く出ませんでした。
結果としては、ネックポイントに近い部分を伸ばすと具合が良いことが判
りました。
そこで、今まで後から付けていた襟を、まずネックポイントの所にイセ込
んで付け、一緒に伸ばすことにしてみました。
そうすると、アゴグリも襟も同じように伸び、綺麗に仕上がったのです。
これで、幾つかの難題が解決し、プルダウンが完成した訳です。
このプルダウンを完成させたおかけで、嬉しいオマケも付いて来ました。
アームホールの形が卵形の尖った形になり、それに合わせて袖を製図する
と、今までよりも袖山の頂上が前になったのです。

これは、私の袖の裁断に大きな影響を与えることになったのですが、これ
により腕の動きが良くなり、横から見て独特の形状を持つものになりました。
長い時間を費やしましたが、「襟・肩・袖を一体に作る」というテーマも
実現したことになります。
これらすべての始まりが、最初に記述した…襟周りにこだわりのあるお客
様T氏がいらしたからで、完成するまでの間色々と試させて頂き、また沢山
のご意見を頂けたことにも深く感謝しています。
"ものづくり"に終着点はありません。今後も更なるスーパープルダウンを、
皆様にご紹介できるよう、精進していきたいと思っています。
#35. プルダウン:その弐
何でもそうですが、出来上がってしまたものは案外簡単に出来たような気
がします・・・が、実際はそうでもなく、例えば「プルダウン」の場合も、
完成するまでに、約3年を費やすことになりました。また、その間色々と失敗
もありました。
襟・肩・袖まわりを一体に考えて、一緒にくせを取る方法を研究していく
内に「思い切ってアゴの部分を伸ばしてみようか」という、それまでの禁止
事項を試してみよう…と思った話を前回致しました。
思い切ったのは良かったのですが、とにかく最初は上手くいかず、難しく
て四苦八苦しました。
まず、以前から行われていた「肩くせ」の方法に、アゴを下から上へ伸ばし、
更に肩も伸ばして肩先にまわしていき前肩を作る、というものがありました。
このアゴを下から上へ伸ばす方法は、ネックポイントが上に上がってしまう
と同時に肩先の方へも動いてしまうので、伸ばした分襟ぐりが大きくなってし
まい、襟が浮きやすくなってしまうことから嫌われていました。
そこで私は、アゴを上から下へ伸ばしてみることにしました。

そして伸ばして長くなったものに合わせて長い襟を作り、付けてみたのです
が・・・襟は物の見事?に襟が浮き上がり、首から離れてしまったのです。
失敗でした・・・。
結果的に襟が浮いてしまったので、アゴを伸ばす方向は関係ないのかな?…
と思いましたが、実際に仕上がった肩を見てみると、上から下へ伸ばした方は
ネックポイントが動いておらず、更に縦方向の動きが大きくなるので、肩先の
ゆとりが沢山できることがわかりました。
つまり、伸ばす方向はこれで良さそうだ…という確信を持ちつつも、アゴを
伸ばすと結局襟が浮いてしまうのか?…という疑問も生じてきた訳です。
しかし、ここで諦めるわけにはいきませんので、アゴを伸ばす方法で、前肩
と浮かない襟を一緒に作れる方法はないものか?…と研究を続けました。
すると、あることに気づきました。
アゴを伸ばすということは曲線の部分が直線に近くなる訳ですから、これが
襟が浮く原因なのではないか?…ということです。
(続く)
がします・・・が、実際はそうでもなく、例えば「プルダウン」の場合も、
完成するまでに、約3年を費やすことになりました。また、その間色々と失敗
もありました。
襟・肩・袖まわりを一体に考えて、一緒にくせを取る方法を研究していく
内に「思い切ってアゴの部分を伸ばしてみようか」という、それまでの禁止
事項を試してみよう…と思った話を前回致しました。
思い切ったのは良かったのですが、とにかく最初は上手くいかず、難しく
て四苦八苦しました。
まず、以前から行われていた「肩くせ」の方法に、アゴを下から上へ伸ばし、
更に肩も伸ばして肩先にまわしていき前肩を作る、というものがありました。
このアゴを下から上へ伸ばす方法は、ネックポイントが上に上がってしまう
と同時に肩先の方へも動いてしまうので、伸ばした分襟ぐりが大きくなってし
まい、襟が浮きやすくなってしまうことから嫌われていました。
そこで私は、アゴを上から下へ伸ばしてみることにしました。

そして伸ばして長くなったものに合わせて長い襟を作り、付けてみたのです
が・・・襟は物の見事?に襟が浮き上がり、首から離れてしまったのです。
失敗でした・・・。
結果的に襟が浮いてしまったので、アゴを伸ばす方向は関係ないのかな?…
と思いましたが、実際に仕上がった肩を見てみると、上から下へ伸ばした方は
ネックポイントが動いておらず、更に縦方向の動きが大きくなるので、肩先の
ゆとりが沢山できることがわかりました。
つまり、伸ばす方向はこれで良さそうだ…という確信を持ちつつも、アゴを
伸ばすと結局襟が浮いてしまうのか?…という疑問も生じてきた訳です。
しかし、ここで諦めるわけにはいきませんので、アゴを伸ばす方法で、前肩
と浮かない襟を一緒に作れる方法はないものか?…と研究を続けました。
すると、あることに気づきました。
アゴを伸ばすということは曲線の部分が直線に近くなる訳ですから、これが
襟が浮く原因なのではないか?…ということです。
(続く)
#33.プルダウン:その壱
私の仕事の、最も大きな特徴が「プルダウン」です。
この技法を思いついたのが35才くらいの時ですから、早いもので既に45年
程行っていることになります。
このプルダウンは、お客様の一人に"襟まわり"のご希望が大変難しい方が
いらして、どうにか"襟・肩まわり"をうまく作りたい…と工夫している最中に
考え出したものなのです。
「日本人は前肩だ」とよく言われます。確かにその通りで、欧米の人に比べ
てやや「怒り肩」で前肩です。昔から研究熱心な先輩諸兄が色々と工夫して
前肩に服を作る技法を考え出していました。「肩ぐせ」という名で呼ばれて
いて大変大事な技法のひとつでした。
勿論私も勉強をしましたが、どれをやってみても「これが完全」と言える
物がありませんでした。更にあくまでも肩だけのことであって、襟や袖には
それぞれ別の「くせとり」がありました。
色々と研究しているうちに、どうも肩だけ独立して考えるのは間違いでは
ないか…と思うようになりました。つまり「襟・肩・袖まわり」を一体に考
えるべきだ…と思うようになったのです。
そしてある時、「思い切って襟まわりを伸ばしてみようかな?」と思いま
した。これは一般的には「絶対にやってはいけないこと」なのですが、何を
やっても上手くいかなのだから思い切って試してみるか!と思ったのです。
父に相談すると「何でもやってみなさい。間違えたら直せば良い」と言っ
てくれたので、その勢いでやってみました。
かなり長い時間を必要としましたが、結果として成功したのです。
プルダウンというのは、首まわりの前側、つまりアゴの部を下へ引き下げ
る技法のことで、これをすることによって次の効果が得られます。
○「襟まわり」はゆっくりと喰いつく。(変な表現ですが正にこの感じです)
○「肩先」が浮き上がるため、腕の動きが大変楽になる。
○「背の両脇」(つまりダキ)が綺麗になる。
今は私塾やセミナーなどを通じて、プルダウンを紹介しています。
実技をすると、襟をグイグイ引っ張るのが印象的なのか…スタンドカラー
の時はやらないと思っている方もいらっしゃいますが、勿論行いますし、襟
のないベストの場合も行うのです。
襟を伸ばすのではなく、襟のつく身頃、アゴを伸ばすことによって、つき
が良くなり肩にゆとりができ、オープンも綺麗に収まるのです。
この技法を思いついたのが35才くらいの時ですから、早いもので既に45年
程行っていることになります。
このプルダウンは、お客様の一人に"襟まわり"のご希望が大変難しい方が
いらして、どうにか"襟・肩まわり"をうまく作りたい…と工夫している最中に
考え出したものなのです。
「日本人は前肩だ」とよく言われます。確かにその通りで、欧米の人に比べ
てやや「怒り肩」で前肩です。昔から研究熱心な先輩諸兄が色々と工夫して
前肩に服を作る技法を考え出していました。「肩ぐせ」という名で呼ばれて
いて大変大事な技法のひとつでした。
勿論私も勉強をしましたが、どれをやってみても「これが完全」と言える
物がありませんでした。更にあくまでも肩だけのことであって、襟や袖には
それぞれ別の「くせとり」がありました。
色々と研究しているうちに、どうも肩だけ独立して考えるのは間違いでは
ないか…と思うようになりました。つまり「襟・肩・袖まわり」を一体に考
えるべきだ…と思うようになったのです。
そしてある時、「思い切って襟まわりを伸ばしてみようかな?」と思いま
した。これは一般的には「絶対にやってはいけないこと」なのですが、何を
やっても上手くいかなのだから思い切って試してみるか!と思ったのです。
父に相談すると「何でもやってみなさい。間違えたら直せば良い」と言っ
てくれたので、その勢いでやってみました。
かなり長い時間を必要としましたが、結果として成功したのです。
プルダウンというのは、首まわりの前側、つまりアゴの部を下へ引き下げ
る技法のことで、これをすることによって次の効果が得られます。
○「襟まわり」はゆっくりと喰いつく。(変な表現ですが正にこの感じです)
○「肩先」が浮き上がるため、腕の動きが大変楽になる。
○「背の両脇」(つまりダキ)が綺麗になる。
今は私塾やセミナーなどを通じて、プルダウンを紹介しています。
実技をすると、襟をグイグイ引っ張るのが印象的なのか…スタンドカラー
の時はやらないと思っている方もいらっしゃいますが、勿論行いますし、襟
のないベストの場合も行うのです。
襟を伸ばすのではなく、襟のつく身頃、アゴを伸ばすことによって、つき
が良くなり肩にゆとりができ、オープンも綺麗に収まるのです。
#22.襟の話
以前、読者の方に「襟に礼服・フォーマルの基本形があるか」というご質問を
頂きました。
これは洋服の基本的な話になりますので、少し詳しく書いてみようと思います。
まず歴史的に見ますと、現在のスーツの形は立襟(スタンドカラー)から始ま
りました。その後、図a.の上の釦を外して襟を折り曲げるようになり、現在の形
(図b.)になった訳です。

襟のゴージ(つなぎ目)から上の部分を「カラー」、下を「ラペル」と云い、
襟が「カラー」と「ラペル」に分かれているタイプを「ステップカラー」、つな
がっているタイプを「ショールカラー」と云います。
「ステップカラー」は、「カラー」と「ラペル」に分かれているので、色々な
デザインを施すことができ、このことがジャケットの表情を決める重要な要素と
なっています。その一例を下にあげてみましょう。

さて、いくつかデザインを見て頂きましたが、ご質問の「礼服の襟」について
話を移しましょう。
「礼服の襟」を思い出してみますと、大概が「ピークラペル」(剣襟)です。
では、「ピークラペル」でなければならないか、というと答えは「ノー」で、
特に決まりはありません。では何故「ピークラペル」が多いのかというと、この
ラペルのデザインはそもそも「ダブル」の服から来ているのです。
前述した「立ち襟」がダブルの場合、襟を倒すと図d.の様に襟先が凄く下がっ
てしまいます。そこで全体のバランスを考え図e.の襟、つまり「ピークラペル」
が誕生したのです。そして礼服はダブルから始まったということ、更に何となく
真面目な印象を与えるということから「ピークラペル」が多くなったのです。

ご存知の方も多いと思いますが、「ノッチラペル」の礼服もありますし、間違
いではありません。「ディナージャケット」(タキシード)などは、「ショール
カラー」にすることも多く、その場合は、襟全体に絹をかぶせます。
「ディナージャケット」は「燕尾服」の略礼装ですから、くだけた感じや華やか
さを演出したいからなのでしょう。
最後に、礼服の襟についてまとめておきます。
□燕尾服 : ピークラペルのみ
□モーニングコート : 基本的にピークラペル、まれにノッチラペルがある
□ディレクターズスーツ : 特に決まりはない
□ディナージャケット : 特に決まりはない
頂きました。
これは洋服の基本的な話になりますので、少し詳しく書いてみようと思います。
まず歴史的に見ますと、現在のスーツの形は立襟(スタンドカラー)から始ま
りました。その後、図a.の上の釦を外して襟を折り曲げるようになり、現在の形
(図b.)になった訳です。

襟のゴージ(つなぎ目)から上の部分を「カラー」、下を「ラペル」と云い、
襟が「カラー」と「ラペル」に分かれているタイプを「ステップカラー」、つな
がっているタイプを「ショールカラー」と云います。
「ステップカラー」は、「カラー」と「ラペル」に分かれているので、色々な
デザインを施すことができ、このことがジャケットの表情を決める重要な要素と
なっています。その一例を下にあげてみましょう。

さて、いくつかデザインを見て頂きましたが、ご質問の「礼服の襟」について
話を移しましょう。
「礼服の襟」を思い出してみますと、大概が「ピークラペル」(剣襟)です。
では、「ピークラペル」でなければならないか、というと答えは「ノー」で、
特に決まりはありません。では何故「ピークラペル」が多いのかというと、この
ラペルのデザインはそもそも「ダブル」の服から来ているのです。
前述した「立ち襟」がダブルの場合、襟を倒すと図d.の様に襟先が凄く下がっ
てしまいます。そこで全体のバランスを考え図e.の襟、つまり「ピークラペル」
が誕生したのです。そして礼服はダブルから始まったということ、更に何となく
真面目な印象を与えるということから「ピークラペル」が多くなったのです。

ご存知の方も多いと思いますが、「ノッチラペル」の礼服もありますし、間違
いではありません。「ディナージャケット」(タキシード)などは、「ショール
カラー」にすることも多く、その場合は、襟全体に絹をかぶせます。
「ディナージャケット」は「燕尾服」の略礼装ですから、くだけた感じや華やか
さを演出したいからなのでしょう。
最後に、礼服の襟についてまとめておきます。
□燕尾服 : ピークラペルのみ
□モーニングコート : 基本的にピークラペル、まれにノッチラペルがある
□ディレクターズスーツ : 特に決まりはない
□ディナージャケット : 特に決まりはない