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#287.苦労した話 その五 ~デザイン~

Posted by KINN Tailor on 11.2016 パンツの話   0 comments   0 trackback
 30年位前から私共にお越し頂いているお客様で、とてもユニークなデザ
イン
の服を注文される方がいらっしゃいます。
 最初の頃はごく普通のデザインの服を注文されていらっしゃいましたが、
ある時「裾がカーブしたパンツ」のイラストをお持ちになりました。これ
は以前「♯21.裾口」で紹介しましたが…私共独自のパンツの始まりでした。
イラスト1**
 このパンツの裾にはかなり苦労しましたが、どうにかお客様のご要望通り
に仕上がり、お納めしました。するとその後は、ジャケットでもご自分で考
えられたデザイン画をお持ちになるようになりました。
 毎度デザイン画を拝見すると「こんな風にできるだろうか?」と悩みます
が、私も新しい事に挑戦したい性格ですから、どうにか仕上げます。すると、
次はこれ、コレ・・・という風に、こちらが思いつかないようなデザインを
提示なさるのです。どんなデザインだったのか?…その中から2つ程紹介
したいと思います。

 最初はダブルブレストのジャケットで、特徴は服全体が弓なりに曲がった
ライン
をしている事と、ピークラペルの剣先が後ろから見える位高い位置
ある事です。
イラスト2**
 案の定、一番苦労したのはピークラペルの位置でした。これだけ高くする
となると上襟がとても短くなります。この上襟は幅が広かったので、短い襟
ぐりに付けて綺麗に返すのがなかなか大変でした。
 次は何と説明したらいいのかわからないのですが…お客様が説明された事
を思い出してみますと、確か「釦から下に逆向きのラペルを付けて下さい」
と仰ったように思います。つまりは、釦から下の裾が外側に返っているジャ
ケット
・・・と言えばわかり易いでしょうか?

イラスト3**
 普通のジャケットの襟は返っているのが当たり前ですから、それが自然に
見えるかも知れませんが、そもそもラペルが返った状態で固定されているの
上襟があるからなのです。
 お客様のご希望としては、前の端が常に返った状態でしたので、どうした
ものか悩まされましたが、針金を入れる訳にもいかないので、結局ラペルと
同じような作り方で返す
しかない…という事になりました。
 まず八刺しを細かく入れました。そしてテープの引き具合と見返しの被せ
方を何通りか試してみてようやく裾が返った状態で保たせる事ができました。

 いつもデザイン画を見ると、服が仕上がったとして実際にお召しになって
出掛けたりされるのかな?…と思うのですが、実際にお出掛けになるそう
です。それもロンドンのお知り合いのテーラーへ着て出掛けてお見せになる
そうです。
 お作りした服の殆どを見せに行かれているそうですので、そのロンドンの
テーラーは私の事を「妙なデザインの服を作るテーラー」だと思っているか
も知れません。
 そのお客様は「服部さんがもうこれ以上できません…と言うまでまだまだ
作り続けますよ」と仰っていらっしゃいましたので、私の挑戦もまだまだ続
く事になりそうです。

#183.パンツのカーブの話 その弐 シートピース

Posted by KINN Tailor on 16.2014 パンツの話   0 comments   0 trackback
 それでは、カーブの途中に切れ込みを入れる技法をご紹介しましょう。

図aシートピース**

 股下の一部を別布で裁ち、それを縫い合わせた後に縫い代の部分だけ糸を
ほどき、縫い目を割りやすくします。この別布の事を「シートピース(Seat
piece)」
と言います。
 これは決して生地の幅が足りないから別布を裁って付けているのではなく、
アイロンワークを楽にするためのものなのです。
 勿論幅が足りなかったり直しで尻囲や腿にゆとりを付けたくなった場合に
シートピースを用いる事もありますが、縫い目を割りやすくするために行う
のは英国ではごく一般的な事なのです。
 更にシートピースは、股下以外にもサスペンダー式のパンツの時に使う
があります。
 図b.のように、サスペンダー式のパンツは腰から上の部分を長く作ります。
腰のくぼみの上までの長さが必要ですから、お尻からくぼみに向かって一度
凹み、そこからまた拡がらないと綺麗にフィットません。つまり腰から考え
ても2~3cm凹んだカーブになる
のですが、ここがまた縫い目が割りにくく
なるので、シートピースを使うと綺麗にできる訳です。

図b サスペンダー**

 このシートピースについては好みがハッキリ分かれていて「布をたっぷり
使わないから生地を足している」と考えてしまう方もいらっしゃるようです。
 前述したように、そういった場合もあるかとは思いますが、そうではなく
着心地やフィットのために使う事も多いのです。
 また、シートピースを使う箇所はあまり人から見える所ではありません。
あくまでも"お好み"の範囲なので何とも言えませんが、誤解されている方は
是非ご理解頂きたいものです。

 最後に・・・私がパンツの股の縫込みを付ける時になぜ多くするのか、特
内腿側も沢山付けるのかを説明しておきます。
 パンツを大幅にお直しする場合、胴囲だけ大きくする時は図c.の左のよう
縫込みの上の方だけ拡げます。そして尻囲まで直さなければならない時は
右の図のように股のカーブの所まで拡げなければなりません。
 そうすると股のクリが小さくなってしまいますから、お尻が入るべくクリ
も大きく
描き直さなければならないのです。
 結果的には股下の縫い目が長くなるの訳ですが、この長さがないと納まら
ないのです。

図c 直し**

 このように…1箇所の直しのつもりでも、直す部分によっては連動した他
の箇所も一緒
に直さないと不具合が起きてしまうのです。
 縫い代を付ける場合は、そこまで考えて付けないといけないのです。


#182.パンツのカーブの話 その壱 アイロンワーク

Posted by KINN Tailor on 09.2014 パンツの話   0 comments   0 trackback
「#180.パンツ後身について」で、尻グリのラインはとても重要で、見た目
だけではなく履き心地にも大きく影響する…という話をしました。
 このラインはお尻の形に合わせて描かなければならないのですが、裁断後
の処理も注意しなければならない事があります。

股カーブ 図a**

 図a.で説明しますと…赤いラインが股の縫い目になります。縫製が終わっ
た段階では左の図のように縫い代は内側(身体側)を向いています。
 このままだと縫い代が身体に当たってしまいますので、アイロンで縫い代
を割って逆さ向き
に倒さなければなりません。
 ところが縫い代の端のカーブは縫い目よりも小さく裁ってあります。それ
を縫い目で開くという事は、縫い目よりも大きなカーブにならないと上手く
納まらない…という事になります。ニット地のように伸びる素材の場合は特
に問題はありませんが、厚手の硬い生地になると大変な作業になるのです。

 そこで図b.のようにアイロンで縫い目を割り、縫い代の端を一生懸命引張
って伸ばし
、反対側に曲げます。
 左の図は縫い代を割った状態ですが、ここまではさして問題なく開きます。
これを右図のように股のカーブで折って縫い代の端を伸ばすというアイロン
ワーク
が大変なのです。ただこの状態で納まるまで伸ばしきらないと、履い
ている内に縫い代が戻って来てしまい、履き心地が悪くなってしまうのです。

股カーブ 図b**

 経験の少ない方は「一生懸命引張って」という表現は大袈裟に感じるかも
知れませんが、本当に一生懸命…というか必死で・・・という感じなのです。
 職人さん達も、このアイロン操作に関してはかなり苦労して勉強しなけれ
ばならないところなのです。特に縫い代を多めに付けておく場合など、布が
多い分縫い代の端のカーブは小さくなりますから大変です。
 一般的に「体型の変化」と云うと元よりも太ってしまうケースの方が多く、
その場合はこの縫い代があるかどうかでお直しが出来るか否かが決まります
ので、どうしても多めに付けておきたいところなのです。

縫い代**
縫い代 腰4.5㎝ 下のカーブの辺り2㎝

 縫い代の端がなかなか伸びてくれないと、「いっそのことカーブの途中に
切れ込みを入れられたらいいのに」と思ったりするのですが、実はこれと同
じような考えからできた技法もあるのです。

 その技法については、次回お話ししたいと思います。

#176.展示会 その弐

Posted by KINN Tailor on 21.2014 パンツの話   0 comments   0 trackback
 4月3日にパンツメーカーEminento(エミネント)の展示会にご招待
頂いたので、出掛けてて来ました。

 今回は、①エミネントスラックス ファクトリーパンツ ②カルツォーニ 
③ゴルフ…という3つのカテゴリーに分け、それぞれがショップ形式にして
展示してありました。
 それとは別の企画として、創立65周年を記念して「65周年フランネル」
という物もありました。65年前と言うと戦後まもなく創業された事になり
ますが、その2~3年後の1952年頃に「フラノ旋風」という流行が起こり、
フランネルがとても売れた時期があります。こちらの会社でもフランネルが
会社の礎を築いた素材なのだそうです。
 今回紹介されていたフランネルは、従来のフランネルの進化系だそうで、
糸その物に空気を含む構造を作り、膨らみと保湿性を持たせた…という事で
した。触った感触としては「やや厚手で、しっとりとした手触りの良いフラ
ンネル」という印象で、とても興味深かったです。
 その他にも三層構造のストレッチ コーデュロイや二重織りデニムなど、
私が普段あまり扱っていない生地の物も多く、大変参考になりました。

 エミネントの展示会に伺ったのは今回が2回目ですが、展示会の資料の中
「旧暦に学ぶ2014のお天気予測」というのがいつも入っています。前回
は何気なく見ていたのですが、今回は説明して頂き、「なるほど!」と思い
ました。
 こちらの会社では製品を作る際に「旧暦」を参考にしているのだそうです。
日本では現在太陽暦を使っていますが、昔は旧暦(太陰太陽暦)を用いてい
ました。日本のように小さい島国の場合は、気候の移り変わりに月の影響を
受けやすいので太陰暦と太陽暦を巧く調節した旧暦が使われていていたのだ
と思います。
 現在でも農業・漁業などでは旧暦を参考にしている例があるようです。私
が旧暦でよく考えられているな…と感心するのは「閏月」です。
 旧暦では1月が29日または30日で計算されていて、19年に7回「閏月」が
ある年が来ます。つまりその年は1年が13カ月になる訳です。そして「閏月」
は季節が決まっている訳ではなく、その年によって、春だったり夏だったり
するのです。この「閏月」が冬に来れば冬が寒くて長く、夏に来れば夏が暑
い…と言われていたようです。今年はちょうど「閏月」がある年で、秋に来
ますから、収穫が多い…という事を意味しているのかも知れません。

 服飾業界からすると、お洒落な方が好きな季節は圧倒的に秋~冬と言いま
すし、ここ数年は秋が本当に短くなってしまい、じっくり味わうこともなく
なってしまいましたので、今年は色々な意味で大いに期待したいと思います。

展示会
左)65周年企画フランネル  右)カルツォー二ショップ

#150.展示会

Posted by KINN Tailor on 14.2013 パンツの話   0 comments   0 trackback
 10月3日にパンツのメーカーとして有名なエミネント(EMINENTO)の
展示会に行って来ました。
 実は、こちらの社員のSさんが私塾に通っていらして、ご招待を頂いたの
です。

 当日はSさんに説明をして頂きながら見学したのですが、いくつかのブラ
ンド別に展示されていて、それぞれが興味深いものでした。
 面白いな…と思ったのは、我々が「シノビ」と呼んでいる小さなポケット
が付いているデザインのパンツが多かったことです。
 私共がシノビを付ける時はその名の通り、縫い目を利用したりしてあまり
目立たないように作るのですが、こちらの製品では右腰にタマブチ仕様で付
いていて、タマブチもやや太めでしたので、恐らくアクセントとして付けて
いるのだろうと思います。
 そして春夏物の展示会という事もあったと思うのですが、色がとてもカラ
フル
な物が多いのも印象的でした。
 私の場合は、どうしてもジャケットを主にしてそれに合うパンツを作る…
という考えになりがちですが、現在のような状況になって来ると、パンツは
パンツとして独立して考えたり、あるいはこのパンツに何を合わせるか…と
いう決め方をしたりする事も結構あるのだろうと思います。

 展示されていた物の中で最も興味を惹かれたのは、原料であるウールの中
の特殊な材料を使って生地を作り
(それも高速織機を使わずにスロースピー
ドで織り上げる)、それを使って仕立てたパンツ=「SAXON PREMIUM」
(サクソン プレミアム)でした。
 生地を織る工程の映像が流れていて、その横に製品が展示されていました
が、とてもしなやかで手触りが良く、適度な粘りもありましたので、シワに
もなりにくいのではないかと思います。
 このように製品に特徴を持たせて、材料から作る…というのは取組として
大変素晴らしい事だと思いますし、大いに敬服するところです。
 但し正直な感想として、これだけ拘って手を掛けた割には表示されていた
価格が思いの他安いということです。
 これだけの商品であるなら、もっと値段を上げても充分認めてもらえるの
ではないか…というのが私の感想です。

 パンツはどうしても、ジャケットに比べると価格が低めに設定されている
傾向のようで、「パンツこそ仕立てるのが難しい」と考えている私としては
残念でなりません。

saxon**
ブランド名:SAXON (Premium)  
テーマ  :テーラー仕立て
イメージ :大きな変化・デザインでなく、あくまでも穿き心地の良さを追求
ポイント :くせ取りのテクニックを応用した立体的なシルエット
素材ポイント:日本毛織 MAF使いのビンテージルック
      1.シルク混トロピカル
      2.三杢ポーラー
      3.グレンチェッック
シルエット:ノープリーツ テーパード
参考上代 :¥30,000-
株式会社エミネント

  

プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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