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#356.リーロイドの生地

Posted by KINN Tailor on 23.2018 生地の話   0 comments   0 trackback
 私が金洋服店の社員として仕事を始めた頃(1950年頃)、店があった港区
の辺りには洋服屋を営んでいる家が比較的多くありました。
 そこで、個々で生地を買うよりはまとめて買った方が値引きをしてもらえる
・・・という理由から「購入組合」なるものを作って、年に2~3回仕入れをす
るようになりました。
 その第一回目の時に、私も父について神田の生地屋さんに行きました。今
では生地見本(バンチ)で選ぶのが当たり前になっていますが、当時はまだ
バンチはなく、現物の生地か大き目にカットされたその見本を見て選ぶよう
になっていました。その中にとても魅力的な生地があったので、父と相談し
て注文する事に決めたところ、店の主任が「実はその生地は、これからウチ
で売り出して行きたいと思っているメーカーの物なので、是非沢山買って下
さい!
」と言われました。それが「リーロイド(Learoyd)社」の生地だった
のです。
リーロイド社**

 リーロイド社について、簡単お話ししますと・・・
 英国で1800年代の初め頃から「産業革命」が起こり、蒸気機関を使った
工場があちらこちらにでき始めました。服飾業界においては、主に生地の
表面の汚れを落としたり、整えたりするような大型の機械が発達し、飛躍
的に生産技術が向上
していったようです。

機械1** 機械2**
◇技術向上、生産力向上のために次々に新しい機械が開発された

 英国のウエストヨークシャーの南西部にハダスフィールド(Huddersfield)
という場所があります。英国生地の聖地とも呼ばれている場所ですが、18
22年
ウィリアム・リーロイドがここに毛織物工場を作り、高級な生地を
作る事を目的として仕事を始めました。
 仕事は上手くいったようで、1800年代の終わり頃にはかなり大きな会社
になっていたようです。
ハダスフィールド**

 私がリーロイドの生地を特に気に入った理由は、手で触った時の感触が
とても良かった
事です。生地自体はそんなに厚くないのに、しっかりしてい
…という印象でした。かなりの出来を期待して仕立ててみましたが、結果
としては「しっかりしていながら、しっとりと身体にフィットする」という、
私の予想を遥かに超えた素晴らしい仕上がりでした。加えて色味や柄が綺麗
な事も、お客様に人気があった理由です。

 話をリーロイド社に戻します。
 1900年代に入ると、ジョージ国王マリー女王が(後にはエリザベス女王
も)リーロイド社を訪問され、その評価は世界中のバイヤーの注目を集める
事となりました。
 1964年には、高級ウールを使用した世界で最高価格の生地を発表する
など業界に話題を提供していましたが、1970年後半になると業界の競争
激化のもとコスト削減を求められ経営が厳しくなり、数社との共同生産を
始めるようになります。そして1994年には工場が火災に遭う!という惨事
により、ついには閉鎖となってしまうのです。

 リーロイド社がなくなってしまった事は大変残念なのですが、うちと付き
合いのある生地屋さんが、自身で年に数回英国へ行き、ストックとして残
っている生地を探して
来てくれます。
 そのお陰で、今でもこの素晴らしい生地を使う事ができるのです。

#349.ビキューナ(Vicugna)

Posted by KINN Tailor on 15.2018 生地の話   0 comments   0 trackback
 あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。

 今年は例年以上に寒さが厳しい気がします。そこで2018年最初ブログ
は、高級コート地として知られている "ビキューナ"について話したいと思い
ます。

 オーバーコートに使われる生地は様々あります。昔の生地は、重さが少な
くとも700g(/平方ヤード)、物によっては800gもありました。
 今は、グラム/平方メートル(1㎡あたり◯◯g)で表示してありますから、昔
の方が表示してある重さが今よりも重かった(約1.2倍)事になります。
 最近は、どちらかと言うと重いコートは敬遠されているようです。では、軽い
コート地
は?…と言えば、まず思い浮かぶのが "カシミヤ"(cashmere)では
ないでしょうか。
 カシミヤは、カシミール地方のカシミヤゴート(山羊の一種)の毛を使った事
からその名が付いたと言われていますが、最近はモンゴルで獲れるカシミヤ
の方が有名かも知れません。
 他には、"キャメル"(camel)や"アルパカ"(alpaca)等がありますが、何と言
っても高級な生地としてで有名なのが "ビキューナ"でしょう。

 ビキューナは南米ペルー産の山羊の一種で、毛の色は所謂ラクダ色です。
この毛をそのまま活かした生地が「ナチュラルカラー」と呼ばれ特に珍重され
ています。ただ、ビキューナは生産量がとても少ないため価格がグッと⤴︎・・・
と言うか、大変高価になります。
 「ビキューナの生地を使って…」と言うご注文は、そう滅多にある事ではない
のですが、昨年末に一着頂戴しました。
 
◾️ビキューナ裁断の様子
ビキューナー1**

カット4**

*ご依頼されたお客様は、「生地の味を楽しみたいので、できるだけ余分な
 物を取り除いたデザインで」と仰られて、ポケットも作らず、本当にシンプル
 なダブルのロングコートにされました。



◾️仮縫い〜完成

仮縫い3**

ビキューナーコート完成**

*風合いと言い、光沢と言い…、それは素晴らしいコートに仕上がりました。

      *   *   *   *   *   *

 ビキューナの産地ペルーといえば・・・実は私共の店のすぐ近くにペルー
大使館
があります。ある日、その前を通りかかったら、何やら展示会を催し
てしていました。何となく興味が湧いて中に入ってみましたところ、ペルーの
特産品など展示していましたが、さすがにビキューナはありませんでした。
 説明員の方にビキューナの事などを質問したりしましたら、「今日は残念
ながらビキューナはありませんが、せめてこれでもお持ち下さい」と、可愛
アルパカの置き物をお土産にくれました。↓↓↓

◾️アルパカの置き物
アルパカ**

#347.色替わりの服

Posted by KINN Tailor on 25.2017 生地の話   0 comments   0 trackback
 先週、お客様の服をご覧いただきました。
 サンクロスの色替わりのスーツを仕立てられた訳ですが…2色あると、
ベストを色替わりにしたりして楽しむ事ができます。

 色替わりのベストは礼服だけでなく、普段の三つ揃いスーツでも良く見受
けられます。では、他の組み合わせはどうでしょうか・・・?。

 ジャケットにジーンズ、ベストといったカジュアルな服装ではなく、スーツ
という視点からみてみますと、ジャケットとベストを同色で作り、パンツを
色替わりにする
…という例はたくさん見ます。しかし、パンツとベストを同
色で作って色替わりのジャケットを着る
、という組み合わせはあまり見かけ
ません。英国などではこの組み合わせは良く見かけるのですが、面白い事
に日本ではとても少ないようです。
 三つ揃いスーツを注文された際に、替えのパンツを別の生地で作っておく
・・・という感覚からパンツだけ色替わりにする方が多いのか?…と言うと、
確かにそういう方もいらっしゃいますが、それだけが理由ではないような気
がします。
 ある人の説によると、ベストは普通背の部分を裏地で作るので表生地は前
身分だけで良く、パンツとベストだけを作ると、生地が半端に余るから好まれ
ないのだ…という事ですが、さて・・・?

 〈インレイ〉
インレイ**


 先日、Academyの生徒さんたちと忘年会をしました。
 急に決まった事もあって少人数の会になりましたが、一人一人とゆっくり
話をする事ができて、大変有意義な時間を過ごせました。

忘年会**

 お店を選んで下さった方、幹事を引き受けて下さった方にお礼申し上げます。


      *   *   *   *   *   *


 さて、今年も早いもので、あと僅かとなりました。
 今年もブログをお読み頂きましてありがとうございます。来年も、ネタが
続く限り作成していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。

 この冬はいつになく寒さが厳しいようです。皆様くれぐれもお身体を大切
に、良いお年をお迎えください。

#283.苦労した話 その壱 〜絹地〜

Posted by KINN Tailor on 13.2016 生地の話   0 comments   0 trackback
 先日、私塾の生徒さんが「大島紬」を持って来ました。洋服地として使え
るか否か
の相談だったのですが、かなり以前に大島紬でジャケットを作った
時の事を思い出しました。

 以前お話した「#39.藍染の絹」の時の事です。この時はジャケットを仕上
げる迄に大層苦労しました。
 ご存じのように、和服地は洋服地と比べると生地幅が 55cmと狭いのです
が、その時に渡された生地は約6mもありました。それでジャケットを作る
訳ですから幅が狭くても充分裁断でき、全く問題ありませんでした。
 更にそのお客様は、「この生地からはジャケットが1枚できればいいから、
残った生地で色々実験してみて下さいよ」と仰って下さいました。そこで、
お言葉に甘えて色々と試させて頂きました。

 まず悩んだのは縫い方です。糸は和服も洋服もですから問題ありません
でしたが、果たしてミシンを使っていいものか・・・を実験してみました。
結果としては、ミシンを使うとどうしても縫い目が硬くなってしまいました。
洋服でも絹100%の生地を使用しますが、それとは織り方が違うようでミシン
を使うのは難しいという事になり、結局地縫糸よりも太い穴糸を使い、手縫
いの返し縫いをする
のが一番適している…という結論になりました。

 次に問題になったのは、アイロンワークです。私の仕事はアイロンワーク
がとても多いのですが、絹に下手にアイロンを当てると生地が光ってしまう
のが心配でした。普段"くせを取る"時は、アイロンを生地の裏側に当てます
ので生地が光る事は気にしなくて良いのですが、実際に試したところ…何と
なく光ってしまうようでした。絹は元々光がありますので判断が難しいので
すが、やはり光る事を恐れて、裏からでも当て布をしてくせ取りをする事に
しました。
 いつものくせ取りは下図のように、アイロンで生地を動かして形を出して
行く方法ですが、そうではなく、まず当て布をした上からスチームを大量に
当て
、次に手で形を整えて、そこにドライアイロンでゆっくり時間を掛けて
形を出して行く
ようにしました。

アイロンワーク**

 このやり方で他の服地と同じように、くせを取る事ができました。仕上げ
アイロン
については、ディナージャケットの拝絹の時と同じようにビロード
のような起毛している布を当て布にして、スチームを使って軽く押さえなが
ら仕上げて行く
方法にしました。これは礼服の拝絹を扱って来た経験から得
たものです。

 このような試行錯誤の結果、どうにか和服地を使ったジャケット第1号
仕上がりました。その後は「♯39.藍染の絹」でお話ししたように、生地幅も
広がり、ジャケットやスーツを何着か作らせて頂きましたが、全ては最初の
お客様が「残りの生地で実験を」と仰って下さったお陰だと感謝しています。

#207.お客様の生地見本

Posted by KINN Tailor on 01.2014 生地の話   2 comments   0 trackback
 生地見本の話も回を重ねてきましたが、最後に一寸変わった見本をお見せ
したいと思います。

 父が店を開いてから暫くの間は英国のジョンクーパー(John Cooper)
いう店の生地を主に使っていました。ジョンクーパーの日本のエージェント
は、英国から生地を1反ずつ買っていて(60mなので約20着分)、父がその
見本の中から選んで注文する…という方法でした。つまり、どの生地を仕入
れるかをエージェントが決める訳です。
 当時は注文をしてから生地が届く迄に3~4ヶ月かかりましたから、このよ
うに仕入れてある生地を使うのが一般的でした。
 後年私も一緒に仕事をするようになってからは、取引きするエージェント
も随分増えました。その中でもドーメル(Dormeuil)社は、大きな展示室を
借りて「ショートレングスの会」という催しを頻繁に開いていました。これ
は、今のバンチ(生地見本)より少し大きな見本を見て、気に入った生地を
1着分ずつ注文する事ができる
…というものです。注文した生地が手元に来る
のにはやはり3~4ヶ月かかるものですから、夏の会では冬物を、冬の会で
は夏物を注文する訳です。
 勿論,大手の洋服屋さんはこの会でも1反ずつ注文したりするのですが、
大元(…と言うと変ですが)から自分たちで生地を選べるというのが魅力的
でしたし、ドーメル社もこの会は特別!…という扱いでした。

 私共の古くからのお客様のT氏は生地を見るのが大変お好きな方で、この
ショートレングスの会にとても興味を持たれていました。「是非一度一緒に
に行ってみたい!」とおっしゃるのでご一緒する事にしました。
 すると、会場では生地を端から端まで…それはそれは熱心にご覧になり、
数点をご注文されました。その熱心さからか、まとめて注文されたからなの
か・・・ドーメルの方から「貴方様の口座をお作りいたしましょう」と言っ
てくれ、T氏は直接仕入れができるようになったのです。
 注文した生地その物が届く前に、注文した店の名前が入った生地見本が届
くのですが、T氏の場合は、通常KINN Tailor となっている注文主の名前の所
がご自身の名前になっています。
 では、選ばれた生地のいくつかを紹介しましょう。

 まず「シャークスキン」です。最も基本的な柄の一つで英国調の服を作る
時に真っ先に選ばれる柄と言われています。普通の生地は右上から左下に向
かって綾がありますが、シャークスキンは逆方向に流れています。ピンヘッド
(Pinhead)
という別名もあります。

1シャークスキン
シャークスキン

 次に「ギャバジン」です。レインコートや替えズボン用に使われています。
日本ではクレバネットと呼ばれる事もありますが、これは間違いで実は防水
加工の発明者の名前なのです。レインコートに防水加工を施す事が多かった
ので、どこかで間違われて使われてしまったようです。

2ギャバジン
ギャバジン

 最後は「ポップサック」です。ざっくりした織り方が穀物の袋のようなの
で、この名前が付いたのだそうです。
 T氏はご自身の物だけでなく奥様の生地も選ばれていたので、紳士服屋が
普通選ばないような華やかな柄や色を直に選べたのが良かったようです。

3ポップサック
ポップサック

 紹介した父やT氏の生地見本は、店を掃除していた時に見つけた物です。
私は普段からあまり整理整頓が上手でなく、なかなか物が捨てられないので
すが、それが幸いしたかのような…懐かしい物でした。
  

プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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