Loading…

#283.苦労した話 その壱 〜絹地〜

Posted by KINN Tailor on 13.2016 生地の話   0 comments   0 trackback
 先日、私塾の生徒さんが「大島紬」を持って来ました。洋服地として使え
るか否か
の相談だったのですが、かなり以前に大島紬でジャケットを作った
時の事を思い出しました。

 以前お話した「#39.藍染の絹」の時の事です。この時はジャケットを仕上
げる迄に大層苦労しました。
 ご存じのように、和服地は洋服地と比べると生地幅が 55cmと狭いのです
が、その時に渡された生地は約6mもありました。それでジャケットを作る
訳ですから幅が狭くても充分裁断でき、全く問題ありませんでした。
 更にそのお客様は、「この生地からはジャケットが1枚できればいいから、
残った生地で色々実験してみて下さいよ」と仰って下さいました。そこで、
お言葉に甘えて色々と試させて頂きました。

 まず悩んだのは縫い方です。糸は和服も洋服もですから問題ありません
でしたが、果たしてミシンを使っていいものか・・・を実験してみました。
結果としては、ミシンを使うとどうしても縫い目が硬くなってしまいました。
洋服でも絹100%の生地を使用しますが、それとは織り方が違うようでミシン
を使うのは難しいという事になり、結局地縫糸よりも太い穴糸を使い、手縫
いの返し縫いをする
のが一番適している…という結論になりました。

 次に問題になったのは、アイロンワークです。私の仕事はアイロンワーク
がとても多いのですが、絹に下手にアイロンを当てると生地が光ってしまう
のが心配でした。普段"くせを取る"時は、アイロンを生地の裏側に当てます
ので生地が光る事は気にしなくて良いのですが、実際に試したところ…何と
なく光ってしまうようでした。絹は元々光がありますので判断が難しいので
すが、やはり光る事を恐れて、裏からでも当て布をしてくせ取りをする事に
しました。
 いつものくせ取りは下図のように、アイロンで生地を動かして形を出して
行く方法ですが、そうではなく、まず当て布をした上からスチームを大量に
当て
、次に手で形を整えて、そこにドライアイロンでゆっくり時間を掛けて
形を出して行く
ようにしました。

アイロンワーク**

 このやり方で他の服地と同じように、くせを取る事ができました。仕上げ
アイロン
については、ディナージャケットの拝絹の時と同じようにビロード
のような起毛している布を当て布にして、スチームを使って軽く押さえなが
ら仕上げて行く
方法にしました。これは礼服の拝絹を扱って来た経験から得
たものです。

 このような試行錯誤の結果、どうにか和服地を使ったジャケット第1号
仕上がりました。その後は「♯39.藍染の絹」でお話ししたように、生地幅も
広がり、ジャケットやスーツを何着か作らせて頂きましたが、全ては最初の
お客様が「残りの生地で実験を」と仰って下さったお陰だと感謝しています。

#207.お客様の生地見本

Posted by KINN Tailor on 01.2014 生地の話   2 comments   0 trackback
 生地見本の話も回を重ねてきましたが、最後に一寸変わった見本をお見せ
したいと思います。

 父が店を開いてから暫くの間は英国のジョンクーパー(John Cooper)
いう店の生地を主に使っていました。ジョンクーパーの日本のエージェント
は、英国から生地を1反ずつ買っていて(60mなので約20着分)、父がその
見本の中から選んで注文する…という方法でした。つまり、どの生地を仕入
れるかをエージェントが決める訳です。
 当時は注文をしてから生地が届く迄に3~4ヶ月かかりましたから、このよ
うに仕入れてある生地を使うのが一般的でした。
 後年私も一緒に仕事をするようになってからは、取引きするエージェント
も随分増えました。その中でもドーメル(Dormeuil)社は、大きな展示室を
借りて「ショートレングスの会」という催しを頻繁に開いていました。これ
は、今のバンチ(生地見本)より少し大きな見本を見て、気に入った生地を
1着分ずつ注文する事ができる
…というものです。注文した生地が手元に来る
のにはやはり3~4ヶ月かかるものですから、夏の会では冬物を、冬の会で
は夏物を注文する訳です。
 勿論,大手の洋服屋さんはこの会でも1反ずつ注文したりするのですが、
大元(…と言うと変ですが)から自分たちで生地を選べるというのが魅力的
でしたし、ドーメル社もこの会は特別!…という扱いでした。

 私共の古くからのお客様のT氏は生地を見るのが大変お好きな方で、この
ショートレングスの会にとても興味を持たれていました。「是非一度一緒に
に行ってみたい!」とおっしゃるのでご一緒する事にしました。
 すると、会場では生地を端から端まで…それはそれは熱心にご覧になり、
数点をご注文されました。その熱心さからか、まとめて注文されたからなの
か・・・ドーメルの方から「貴方様の口座をお作りいたしましょう」と言っ
てくれ、T氏は直接仕入れができるようになったのです。
 注文した生地その物が届く前に、注文した店の名前が入った生地見本が届
くのですが、T氏の場合は、通常KINN Tailor となっている注文主の名前の所
がご自身の名前になっています。
 では、選ばれた生地のいくつかを紹介しましょう。

 まず「シャークスキン」です。最も基本的な柄の一つで英国調の服を作る
時に真っ先に選ばれる柄と言われています。普通の生地は右上から左下に向
かって綾がありますが、シャークスキンは逆方向に流れています。ピンヘッド
(Pinhead)
という別名もあります。

1シャークスキン
シャークスキン

 次に「ギャバジン」です。レインコートや替えズボン用に使われています。
日本ではクレバネットと呼ばれる事もありますが、これは間違いで実は防水
加工の発明者の名前なのです。レインコートに防水加工を施す事が多かった
ので、どこかで間違われて使われてしまったようです。

2ギャバジン
ギャバジン

 最後は「ポップサック」です。ざっくりした織り方が穀物の袋のようなの
で、この名前が付いたのだそうです。
 T氏はご自身の物だけでなく奥様の生地も選ばれていたので、紳士服屋が
普通選ばないような華やかな柄や色を直に選べたのが良かったようです。

3ポップサック
ポップサック

 紹介した父やT氏の生地見本は、店を掃除していた時に見つけた物です。
私は普段からあまり整理整頓が上手でなく、なかなか物が捨てられないので
すが、それが幸いしたかのような…懐かしい物でした。

#206.父の生地見本 その伍

Posted by KINN Tailor on 24.2014 生地の話   0 comments   0 trackback
 先週に続き、の話です。

 まず、現在では最もポピュラーなです。今はスーツといったら無地より
も縞…という方がとても多いように思います。
 縞の入り方にもよりますが、結構派手に見られる事もあるようです。特に
荒い縞は、若い方が着ると「生意気だ」と思われた時代もありました。私の
若いお客様で、大層縞が好きな方がいらっしゃいましたが、「白い荒い縞
服を早く着てみたいのだけれど、40歳を過ぎないと無理でしょうね・・・」
とおっしゃっていたのを覚えています。
 ではその白い荒い縞から紹介します。

ストライプ柄

 上から順にチョークストライプペンシルストライプピンストライプ
なります。
 ピンストライプは連続していない線…つまり点が並んでいて遠目に見ると
縞に見えるという物です。縞の織り柄は柄が目立ちにくく、ちょっとした光
の関係で縞が見えるので上品な印象ですし、礼装としても使えます。これは
シャドーストライプと呼ばれています。

 さて最後は格子です。
 格子柄というと、縦横の線が重なった柄がすぐに頭に浮かぶと思いますが、
その一番シンプルな物がウィンドウペインです。そしてこの線の色や重なり
具合で様々な柄を表現しているのが、タータンチェックです。

ウィンドウペイン

 格子と言うと千鳥格子を思い出される方もいらっしゃると思います。英国
ではHaund Tooth(ハウンドツース 猟犬の歯)と言います。この千鳥格子と
ウィンドペインを組み合わせた物もあり、その場合のウィンドウペインの事
オーバーチェック(千鳥格子にチェックを乗せた)と呼んでいます。

千鳥格子にオーバーチェック

 そして格子柄の中でよく使われるのがグレンチェックです。Glen Urquhart
(グレナカート)が正式名称ですが、発音がしにくかったせいか、日本では
グレンチェックと呼ばれています。

グレンチェック

 このように格子柄は、組み合わせにより多様な柄を出す事ができ、グレン
チェックの替えズボンなどはかなり人気がありました。ところが、最近では
柄を好む方が少ない・・・と言うか、プライベートなどにウールのパンツを
履く方が減ってしまったせいか、ズボンで格子を選ぶ方が随分少なくなって
しまいました。
 昔に比べると柄物を着る方が減っているのだと思いますが、素材としては
ツィードなどに人気が集まっているようですから、是非ツィードの格子柄
ヘリンボーンなどを試してみてみる事をお勧めしたいと思います。

#205.父の生地見本 その四

Posted by KINN Tailor on 17.2014 生地の話   0 comments   0 trackback
 生地の柄には基本的な物が何種類かありますが、昔から変わらずに続いて
いる柄を、父の生地見本の中からいくつか紹介したいと思います。
 生地は織物ですから、糸の色と織り方で柄を表現します。ですから自由に
図柄を表すことは難しく、どうしても幾つかのパターンに限定されて来ます。

 まずで表した柄です。
点の柄

 上から…ピンスポット(針の頭)ネイルヘッド(釘の頭)バーズアイ
(鳥の目)
と呼ばれている物です。ネイルヘッドの見本には「Nail-head or
Bird-eye」と書かれています。点の大きさが厳密に決まっている訳ではあり
ませんので、これは ”微妙な大きさ” という事なのでしょう。この点の柄は、
縞に比べると品が良い…という感覚だったようで、昔は人気がありました。
当時は三つ揃いが主流でしたし、今よりも襟の空き具合なども狭く生地が見
える率が高かったので、縞を選ぶとかなり派手になってしまったからだと思
います。今ではあまり使われなくなってしまいました。

 次に、ダイアゴナルです。
ダイアゴナル

 普通生地には裏表があって、表側はカタカナの "ノ" の字…つまり右上から
左下に向かって斜めの綾
があります。この綾を特にハッキリ見えるようにし
た柄をダイアゴナルと言います。また、ダイアゴナルと同じ柄出しで、織り柄
(糸の色を変えずに織る)の物をサージと言います。
 今から50年位前の事になりますが、当時学生服はほとんどサージで作って
いました。大学生が就職活動をする際、今とは違って学生服を着ましたので、
4年生になると学生服を新調したそうで、その時期になるとサージが大量に使
われていたのです。
 当時の新入社員は皆濃い紺色の学生服というスタイルでしたが、いつの日か
濃いグレーのスーツが主流となり、今では黒のスーツが多くなったそうです。
勿論今はサージではなく、通年着れるような薄手の生地やニット素材の生地に
変わっている筈です。

 続いて、昔も今も人気のある杉綾(ヘリンボーン)です。
ヘリンボーン1,2,3

 真ん中の生地は非常に大きな柄のコート地用。右側はヘリンボーンの変形です。
ツィード地でジャケットなどを作る場合は、このヘリンボーン柄を選ぶお客様が
とても多くいらっしゃいます。色によっては派手な物もありますが、そのような
色使いでも比較的抵抗なく着こなせる柄の一つなのだと思います。

 この続きは、次回にお話しましょう。

#200.父の生地見本 その参

Posted by KINN Tailor on 13.2014 生地の話   0 comments   0 trackback
 父の見本を見ていると、礼服に使われる生地が沢山残っています。

 上物としてよく使われる生地としては、黒のドスキン(Doeskin)があり
ます。私共ではドスキン以外にもウールバラシアマイクロヘリンボンなど
も使いますが、やはり「礼服にはドスキン」と、多くの方がおっしゃいます。
 このドスキンというのは「ドウ “Doe”(牝鹿)」「スキン ”Skin”(革)」
という意味で、本来は牝鹿の革をヤスリなどで加工して起毛させた物の名前
で、この革の感触に似せて織られた生地の事も"ドスキン"と呼んでいます。
ですから牡鹿の革を加工した物もあり、それを「バック “Buck”(牡鹿)」
「スキン “Skin”(革)」
と言い、同様に"バックスキン"という生地もある
のです。
 バックスキンという名前は皆さんよくご存知だと思いますが、牡鹿の革と
いう本来の意味ではなく、"革の裏側"という意味だと思っている方も多いの
ではないでしょうか? 私の専門外ですが革を起毛させた物には色々とあり、
「スウェード、バックスキン、ヌバック」…全て加工法や原材料が違うのだ
そうです。布地でも感触によってこれらの名称を使うので混乱を招きやすい
のかも知れません。

写真1ドスキンとバックスキン**
ドスキンとバックスキン

 さて礼服となると、やはり日本で一番多く着られるのがモーニングだと思
います。
 モーニングには縞ズボンが必要なのですが、父の見本に「コード地 "Code"
(縞ズボン用の生地)」が実に沢山残っているのを見ても、当時は今と違って
如何に多くのご注文があったか…がわかります。

 ちょっと面白い物も見つけました。当時、英国に生地を発注すると、先に
見本が送られて来ます。その見本の下には注文主(店)の名前が印刷されて
いるのですが、一番最初に送られてきた時は「TAILOR HATTORI」となって
いました。そこで「うちの屋号は金(キン)だよ」と伝えると、その次の時
「TAILOR KIN」と印刷されて来ました。正しくは「KINN」なのですが、
口頭で伝えただけでしたので悪い事をしたな…と思い、今度は書いた物を渡
しましたら、三度目にやっと「TAILOR KINN」と直った物が届きました。
見本も三種類あったのですが、上手い具合に残っていた物だな・・・と妙に
感心した次第です。

屋号2**
表記ミスのあった見本

 コード地の見本は30~40枚も残っていて、種類も色々です。
 中でも珍しいものは、ツィード(チェビオットが多い)のコード地です。
これはガーデンパーティなどの時用の物で、式典などとは違う少し気軽な会
に着るのに相応しい生地です。
 かなり厚みがありますので、上着もざっくりした織りの物を合わせます。
そんな機会があったら着てみたい!(私の場合は、作ってみたい!ですが)
・・・と思う程、実に味わいのある生地です。

写真3-2 ツィード**
ツィードのコード地とフォープライの上着地
  

プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR