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#382.上皇様の思い出

Posted by KINN Tailor on 13.2019 特別な話   0 comments   0 trackback
 「新しい裁断法によるパンツ」…その具体的製作例をお見せする途中では
ありますが、新しい時代『令和』を迎えた事もあり、4月30日をもって天皇
を退位
なされた明仁上皇陛下の思い出をお話ししたいと思います。

 上皇様昭和天皇の第一皇子として、昭和8年にお生まれになられました。
 それまでは3人続けて女のお子様でいらっしゃいましたので、待望の男の
お子様(皇太子殿下)がお生まれになったという事で、12月23日の早朝には
街中にサイレンが鳴り響き、大変な騒ぎとなったそうです(私は当時3歳でし
たので、記憶は薄っすら・・ですが)。
 その後、皇太子殿下は大変順調にお育ちになられましたが、日本が戦争
へと突入してしまった為、早くからご心労がおありになったと思われます。
 終戦後、少し世の中が落ち着いてきた昭和27年に皇太子殿下の立太子礼
が執り行われました。
 その際に私共から礼服一式を納めさせて頂いた訳ですが、その準備の時か
ら数えて、かれこれ70年近く御用を務めさせて頂いている事になります。

 上皇様のお洋服のイメージと言うと「ダブルのスーツ」(実際は三つ揃い)
とお答えになる方が多いと思います。
 上皇様は立太子礼の翌年に、エリザベス女王の戴冠式に陛下(昭和天皇)
の名代としてお出掛けになられましたが、その時に現地・英国の洋服屋さん
で礼服とスーツをお作りになられました。そしてデザイン等についても色々
とお話をお聞きになられたそうです。
 ご帰国後、仕立てられたスーツを拝見し、ご希望のデザインを等を伺って
新しい服を作らせて頂きました。その当時の英国の流行りは広目のラペルに
太目のパンツ
…というものでしたが、その頃の印象が強くお気持ちに残って
おられたようで、その後、服の流行がどんどん変わり、特にパンツはかなり
細くなっていったものですが、殿下はそのままの御寸法の物を好んでお召に
なっておられました。
 ある時、雑誌に「殿下、ズボンが太すぎます」という記事が載った事もあ
りましたが、「私はこのままで良いです」と仰って、寸法を弄る事はありま
せんでした。

 上皇様はご自分のスタイルをしっかりお持ちになっていて、皇太子殿下か
ら天皇陛下に即位なさってからも決して変わることはありませんでした。
 その一方で、お召になられた時の見え方・・と言いましょうか、お身体に
合ったサイズについてはとても細かく気にされていて、体形の変化に合わせ
たお洋服のケア
を頻繁になされていました。
 いつも同じデザインの服をお召になっている…という印象をお持ちの方も
いらっしゃると思いますが、お身体に合わせる為のお直しは、驚く程の頻度
でなされていました。

 洋服以外の事で、私の心に深く残っている事をお話しします。それは平成
23年の東日本大震災の後、お直し物があって御所へ伺いましたところ、天皇
陛下(当時)が次のように仰いました。
 「数日前に東北地方へお見舞いに行ったのですが、被災地は何しろ大変な
瓦礫でね・・あの瓦礫を早く片付けてあげないと、復興が進まないと思う
です。何とか上手い方法を見つけて、一日でも早く元の生活に戻れるように
してあげなければ
ならないと思っています」
 ・・何気ない服のお直しの場で、このようなお言葉を直に耳にし、本当に
始終国民の事をお考えになっておられるんだな…と、とても感動しました。

 上皇陛下には、いつ迄もお元気でお健やかにお過ごし頂きたいと思います。

**文中の立太子礼英国ご訪問について、ブログ#270.~272.「金洋服店
  とモーニング」で詳しく書いていますので、ぜひお読み下さい**<


    モーニング晋
 『令和』を迎え、お祝いの記帳に伺って来ました。
       〜令和元年5月2日〜

#381.新しい裁断法によるパンツ その五

Posted by KINN Tailor on 29.2019 裁断の話   0 comments   0 trackback
 いよいよ、製作工程をお見せします。
 今回使用する生地は、フォックス社の細かい千鳥格子柄の生地です。

①まず、生地にキズがないかを確認する
新裁断パンツ5-1
・生地を広げ・・・
・キズの有無を見ます。


②次に切り口、生地のゆがみを見る
新裁断パンツ5-2
・切り口が真っ直ぐかどう確認します。
・切り口を揃えます(今回は綺麗に切り揃えられていた)。
・耳を揃えます。 
*テーブルの端などを利用し、耳をできるだけ真っ直ぐな状態にして揃えます。


③ゆがみが出たら、生地を広げ直し下の生地を手で均しながらたたみ直す
新裁断パンツ5-3
・下側の生地を手で均す → ゆがみが小さくなる
・小さなゆがみは生地を引いて直します。
*この程度のゆがみの場合は、生地を斜めに軽く引くと直る場合が多いです。


④パターンを置いて地の目を通す
新裁断パンツ5-4
・先に、腰帯分取ります。
・前身頃の地の目を通します。


⑤前身頃のチョークを引く
新裁断パンツ5-5
・裾の折り返し分を確保します。
・チョークを入れます。
*チョークが入りました。


⑥修正する
新裁断パンツ5-6
・2.5cm計り、前身頃を小さくします。
・小股が小さくなった分、チャックの端がギリギリまで来ます。


 この続きは次回に・・・

〈つづく〉

#380. 新しい裁断法によるパンツ その四

Posted by KINN Tailor on 15.2019 裁断の話   0 comments   0 trackback
 私が次に目を付けた、後ポケットのダーツについて少し説明します。
 後ポケットのダーツを取ると、下図のように脇の縫い目が内側に入ります。

新裁断パンツ4 イラスト1**

 一般的な体形で考えますと・・・人の身体はお腹側が膨らみ気味で、その
反対側…つまり腰のラインの背中の所が凹んでいます。ですから、上の図
のように脇が内側に入っているのは上手くない訳です。
 そこでアイロンでクセを取り前身側に向くようにします。

新裁断パンツ4 イラスト2**

 私が考えたのは、このクセ取り作業を省けないか?・・・という事でした。
普通お尻の膨らみを出すためには、ダーツを取らない訳にはいきませんが、
この脇の線が内側に入ったままでは、歩きにくく、座り心地の悪いパンツに
なってしまいます。
 クセ取りは絶対に必要な作業ですが、ダーツが2本も入っていて比較的
い距離でカーブ
させなければなりませんので、難易度が高い…と言えます。
 そこで私が考えた解決方は、縦に取るダーツを横に移動させる…という事
です。つまり(下図のように)本来の縦ダーツ長さの所で脇の縫い目まで切り
離し
、ダーツを取った分生地を曲げて裁断をします。

 新裁断パンツ4 イラスト3**

 この"横向きダーツ"で、脇の縫い目が前身側に向くかどうか?…疑問に
思われる方もいらっしゃると思います。それは、この後実際に仕立てている
工程でお見せしますのでご確認下さい。
 さてポケットですが…せっかく横向きに縫い目がある訳ですから、これを
利用する事にしました。
 新しい裁断法として試してみたのは、後身頃を2枚に分ける事と、後ろの
ダーツの位置を移動させた
事…その2点になります。
 実際に仕立てて、履いてみた感想をお伝えしますと・・・
しゃがんだ時に腰がきつくならない
立ち上がった時の尻から腿にかけての"たるみ"が少なくなった
今迄のパンツよりも履き心地が良い
 …など、幾つかの効果を実感しました。

 次回からは、実際に作る工程に入って行きます。

〈つづく〉

#379.新しい裁断法によるパンツ その参

Posted by KINN Tailor on 01.2019 裁断の話   0 comments   0 trackback
 後身頃にもう一本縫い目を付けるという事は、後身頃を2つに分ける事に
なり、幅の広い物と狭い物になってしまう為、力関係が良くない・・・

 この問題を解決する為に、前身頃の幅を狭める・・という事をしてみた
のですが、前身頃の幅を狭くすると、見た目がおかしくならないか?…と
いう事が気になりました。
 脇の縫い目は(横から見て)ほぼ真ん中にありますが、これをどこまで
前に持って行って大丈夫か
やってみたところ、2.5㎝迄はさほど気にならな
い…という事がわかりました。
 またパンツの脇のポケットの口は斜めに作る事が多いのですが、口の上
を3㎝程内側
にしますから、脇の縫い目が2.5㎝内側に来ても、それを利用
して縦ポケットにすれば問題ない
…という事もわかりました。

 イラストで解説しますと・・・
(まず、いつもの方法でパンツの製図をし、そこに修正を加えて行きます)
新裁断パンツ前・後**
            ⬇︎   ⬇︎   ⬇︎
    新裁断パンツ後*

 ここで気を付けなければならないのは、前身の小股です。股下の所を狭く
した分、小股のカーブが浅くなってしまいますので、ファスナーの開き止ま
りを縫い目ギリギリまで下げる
必要があります。

 さて・・ここで、どうせ変わった裁断をするのであれば、もう少し変える
事ができるところはないか?…と思いました。
 目に付いたのは、後のポケットの上にあるダーツです。これは腰の膨らみ
を出すために必要で、ダーツを取った後にアイロンワークも必要となります。
 そこで、ここを改良する事に着目しました。

〈つづく〉

#378.新しい裁断法によるパンツ その弐

Posted by KINN Tailor on 18.2019 裁断の話   0 comments   0 trackback
 さて、まずは「一筋縄でいかないパンツ」を「履きやすく・動きやすく・
綺麗に見せる」ための重要な作業 = "くせ取り"について、具体的にその個所
と効果
をイラストで解説します。

新裁断パンツ**

a. 小股に丸みを付ける事によって、チャックが綺麗に収まるようになる。
b. 前身頃の両側を伸ばすと中心が前に出て、脚が前に出るようになる為、
 歩きやすくなる。
c. 裾をモーニングカットにする。
d. ふくらはぎの形を出すことにより、履いた時にふくらはぎの影響を受け
 ずに綺麗に落ちるようになる。
e. 後身頃の内側を伸ばすと、内股に弛みが出ず綺麗に下がる。
f. 斜線赤の箇所を凹ませる。ヒップ下のラインが綺麗に流れるようになる。
g. 斜線青の箇所を膨らませる。ヒップの丸みが出る。
h. 裾をモーニングカットにする。

 イラストでもおわかりのように、後身頃の内側に"くせ"を取る個所が集中
しています。特に「くせ取りf.」はとても重要であり、同時に時間の掛かる
所です。
 イラストf.のアイロンが描いてある位置…つまり脇から"くせ"を取り始め、
矢印の3方向へ展開して行きます。これをすると股下z.のカーブが移動して
斜線赤の所が凹む事になります。z.の長さは変わらず、カーブが真っ直ぐか
逆に膨らんだ感じ
になります。
 "くせ取り"をした事がない方には想像しにくいかも知れませんが、アイ
ロンワークを施す事によって、生地が膨らんだり伸びたりします。・・と
いう事は、その影響によって別の所が凹んだり、縮んだりする訳です。
 この影響を狙って行うのが"くせ取り"です。

 私は、この"くせ取り"作業を軽減する事ができないか…考えました。
結果思い付いた事は、「この凹ませたい所にダーツを取る」という事です。
これが一番簡単な方法です。そして次に思った事は「後身頃の股下は普段
見えないから、ダーツよりもう一本縫い目を増やしてしまった方が綺麗に
仕上がる」という事です。
 早速試してみようと思いましたが、ここで問題がある事に気が付きまし
た。後身頃にもう一本縫い目を付けるという事は、後身頃を2つに分ける
事になる訳ですが、私が縫い目を付けたい所は、ヒップの"くりの下"の方
な訳です。そうなると後身頃が幅の広い物と、とても狭い物になってしま
い、あまり幅が違い過ぎるのは力関係が上手くない・・という事になって
しまいます。

 この続きは次回・・・

〈つづく〉
  

プロフィール

KINN Tailor

Author:KINN Tailor
服部晋(はっとり すすむ)
金洋服店 2代目店主
10代半ばから父・金生に師事し、洋服作りを修業。
伝統的な裁断・縫製技術を磨きながら日々研究を重ね「斜面裁断」や「プルダウン」など独自の技法を開発。
近年では後進指導のための私塾やセミナーなどを開催する一方で、技術継承のためにDVD制作にも積極的に取り組んでいる。

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